#022:獰猛の、トープ
#022:獰猛の、トープ
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ギシュギシュ、と何とも耳障りな「声」を上げながら、オセルの搭乗する「鋼鉄兵機」を取り囲むようにしているのは、大型の爬虫類を思わせるフォルムの「ベザロアディム」。うしろ脚で立ち上がれば、家屋の二階部分までその頭部は楽に到達するほどの大きさであり、生身で真っ向から立ち向かおうとすると、かなりの威圧感を感じさせる。おまけにその動きは見た目によらず俊敏で、特に注意すべきは、口から放たれる高速の舌に絡み取られ、そのまま引きずり込まれてしまうことにある。
身体全体も他の「マ」と呼ばれる怪物同様、黒い霧のような光のようなものに活動中はくまなく覆われており、微妙な動きが読みづらく、さらにその一撃必殺の「舌」の出どころ、出どきというものも把握しづらいと来ている。
そして中途半端な銃撃ではほぼその体に損傷を与えられないともなると、空腹状態の個体に出くわした際には、よほどの幸運に恵まれない限り、その体内に飲み込まれるのを防ぐ手立ては無い。
かなりの凶悪な種であり、どこの地区自警においても警戒レベルは高く、その駆除方法も様々試されてきたものの、結局のところ、「高出力のエネルギーで、皮膚のごく浅いところを神経が集中して通っているうなじを撃ち抜く」という、ある程度の火力をぶん回せる猟銃あるいは、兵機に搭載されている大型の銃器ありきでの、さらにひっきりなしに動き回る一点を狙撃する困難さを伴う正攻法が求められるという、厄介さに胃もたれがしそうなほどの難敵であった。
「……」
「イド」と呼ばれる、これら謎の生命体が遥か地底の奥から湧き上がるかのようにして出現してくる黒い霧に包まれた穴は、何の前触れも無く、突如として発生する。イドの開く場所や時間帯には、規則性は見当たらない。ただ、ある時ある所に音も無くにじみ出るようにして出現し、何匹かの「マ」のものたちを吐き出すが如く、この地上に誘うのである。
「……やろう~、なにアイコンタクトなんざ始めやがってんだ、とっととかかってこぉいっ」
そのベザロアディム五体を、住宅街の只中に出現した「イド」から、地区内にある比較的広い森林公園へとうまいこと誘導したのは、オセルと彼の乗る「ステイブル」である。「マ」のものたちは総じて「血のにおい」に誘引されるという習性を持っており、これを逆手に、罠のある場所へ誘い込むなどの策に使用されるのが、「血霧」と呼ばれる、動物、あるいは人の血液を原料に作られた液状の製剤であり、これを空気中に噴霧できる装置にセットして、目的地へとおびき寄せるのである。
ステイブルにもこの「血霧」発生装置は装備されており、今回は優位な場所、ある程度開けた所まで、出現した全個体を引っ張って来ることが出来ていた。
しかし、状況が芳しくないことは、オセルをはじめ、その場にいる自警の面々全員が実感している。