#018:委縮の、アイスグリーン
#018:委縮の、アイスグリーン
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単車の速度は快調。ただ僕の気持ちはパツンパツンに張っているわけで。
どうするべきかも何とも、気持ちの整理もつかずに、先ほどからの教科書通りの狙撃姿勢のまま、ただ後部座席にて硬直するのみだった。
「ジンさン、リラックスリラックスねー。『やつら』に接近されルなんテことは、絶対さセませんシ、だカらこれは一方的な『ハンティング』よー、楽勝楽勝」
ヘルメットに付けられたインカムからは、そんな能天気な言葉が聞こえてくるものの、先ほどの切迫した本部(?)とのやり取りから思うに、そんな悠長に構えてもいられないのだろう。それなのに、ジカルさんは、僕にプレッシャーを与えないよう、そんな明るい言葉をかけてくれている。
応えたい。この「異世界」に放り出されて間も無い僕だけれど、少しづつ、この世界に生きる人たち、特にこのジカルさんに報いたい気持ちが大きくなってきている。
「……今回噴出シた五つの『イド』のうち、私タちが向かっている、地区の南東にあるやツを『南東イド』と呼ブね。その周りデ確認さレた『マ』は、三体。で、今、出張っている兵士は二十二名との報告ガ入ってイます。そしテ、回されてイる『兵機』は残念なガら無しと。正直、これダけの手勢で、『目標』の殲滅、おヨび『イド』の封殺をするノは非常に困難でス」
ジカルさんが告げる状況は正直、僕にはぴんと来ていないものの、その口調から、まずそうな感じはひしひしと伝わってきている。
「……せめて『ウォーカー』一機でモあれバ……」
ジカルさんの言う「ウォーカー」とは、何というかまあ、「鋼鉄で出来たロボット」らしきもの、だそうだ。うーん、ますますVR感が募る。
「イえ! 泣き言を言っテいる場合じゃナイですヨね。ジンさンといウ、心強い味方ガ私たちニはいることでスし。といウことで、ジンさンには、中距離かラの狙撃をお願いしタいわけでス。『やつら』の弱点はズばり『うなじ』!! そこニ的確にその銃の『弾丸』を命中させレば、おそラく、一発で沈めらレるはずデす」
ジカルさんは僕をおそらくは鼓舞しようと、そう情報を伝えてくれているのだろうけど、動き回る目標の一点を、こちらも動き回りつつ、撃ち抜かなければいけないわけで、うーんうーん、やっぱりどう考えても難しさ、とめどないわけで。
「……前方に見えテ来ましタ。あいツらが、『ベザロアディム』でス」
ジカルさんが促す前の方を、少し体をずらして見やると、50mくらい先だろうか、建物の隙間から、その「ベザロ何とか」という、例の「怪物」が姿を見せている。
大きさは5mはあるだろうか。直立した、トカゲかワニのような体躯だ。やはり「黒い光」のようなものに全身を包まれ、そのせいでその全容ははっきりとしないものの、その面構えは、やはり凶悪そうなわけで。
見上げるほどの高さに迫ったその「目標」をまじまじと見るにつけ、「ハンティング」されるのは一体どっちなんだろうー、と、僕は委縮に委縮をした心持ちの中、力無くそう考えることしか出来ない。