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#017:窮状の、グラファイト

#017: 窮状の、グラファイト


 唸るエンジン音が、す、と止んだ。街路を車道も歩道も関係なくぶっ飛ばしていたジカルさんの単車だったが、急激に止まるのもやめて欲しいわけで。路肩にタイヤを軋ませながら止まるバイク。そして何か小声でやり取りをしているのが、僕の前座席の方から聞こえてくる。

 辺りは物々しい雰囲気になりつつあった。ようやく他の人の姿を見かけた、と思った僕だが、その完全に戦闘用と思しき装備に身を固めた格好に、ああ、ここやっぱり戦場なんだよねえ……と諦めのような納得のような感想を抱かされる。

かくいう僕も先ほどから「ライフル」をご丁寧に顔の右横に構えて、今にも撃ちますよ的な姿勢を解いていないわけで。

いや、臨戦態勢であるというよりは、体が固まっちゃって動かせないんだよね……両肩は既に強張ってきている。

ジカルさんは、と前方の華奢な背中を見やるが、先ほどから何事かを真剣に応答している。そして、


「……セルメアイア」

 了解、とでも言ったのだろうか。ジカルさんはインカムに当てていた指を離し、再びバイクのハンドルを握る。押し殺していながら、何か決意めいたその厳かな口調に、僕はいやな予感しかしないものの。


「ジンさン。事態は深刻でス。『イド』から湧キ出た、性悪『ベザロアディム』たちは、マだ十数匹残っテいるとのコとネ。そしてひとヲ襲い始めテいる。一刻も早ク、奴らを殲滅スル必要あル。南東地区が手薄となっテいるとノ本部かラの報告、要請を今受けマシた。これヨり……」

 ああー、いやな予感が僕の脊椎を駆けあがってくるようだー。


「……私たチも、『南東イド』周辺に潜伏シている『ベザロアディム』を撃つネ!!」

 ですよねー、その展開は薄々読めてました。ただもう、ここまで来たらやるしかない的な覚悟が僕の中にも、ほんのわずか、ロウソクの灯のように灯り出してきたわけで。

 幸い、バーチャルの中では、そこそこのスナイパーだ。これはゲーム……これはゲーム……と思い込むことにより、僕はリアリティーの所在を何とかごまかそうと苦心する。


 一方、アクスウェル地区自警本部。ジンとジカルが居る南東地区からは、距離にして約3kmくらい離れた、城壁に囲われたこの地区の中央辺りに位置する、巨大な基地と呼んでも差し支え無さそうな広大な土地の、これまた中央辺りに、「本部」の収まる石造りの建物はそびえたっていた。

 掲げられた金色に光る鷲を模したマークが、でかでかとその正面で存在感を放っている。大げさ過ぎるきらいはあるものの、殊更、威容を誇るその佇まいが、この地区に住まう住民たちに、信頼と安心を与える役割も兼ねているのであった。


「……現況を」

 その上階の一室。大きくスペースの取られたそこは、作戦会議室といったところだろうか、薄暗く照明が絞られたあちこちで、ディスプレイからの様々な色の光が明滅している。

 短く言葉を発したのは、総司令カヴィラ=ワストー・クォーラその人であったが、その表情は冴えない。苦境を察しているかのように、普段の温和な顔つきからはかけ離れた、厳しい目つきで目の前に広がる大画面を見据えている。


「……未だ、十六体の存在を確認。特に南東地区に人手が足りていません」

 ごついヘッドセットを装着したまま、振り返りつつそう告げたルフトーヴェルが、その眼鏡の下の目つきを強張らせる。


「……どうしたものか、ですね」

 腕組みをしつつ、カヴィラは口を引き結ぶ。その目の前の画面上では、「怪物」を示すと思われる赤い光点が、体内を蠢く病原菌のように、無秩序に動き回る様子が確認できる。


(……ジェネシス。頼みの綱は、あのコかも知れない。だがどう動かす?)

 カヴィラは自問する。


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