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#013:随意の、アンバーローズ

#013:随意の、アンバーローズ


 「モゥタ・サイコォ」言いまス、とのジカルさんからの説明があったわけだけど、まあ結構な速度が出てるわけで、この裾広がりの大型バイクは。


「……!!」

 跨った後部座席の前後にある取っ掛かりを、左右の手でしっかり握っているものの、後方へと引っ張られるような、身体に感じるGは相当なものだった。垂直方向への重力が低い分、なおさらそう感じるのかな? 分からないけど。


 舗装された平らで滑らかな「道路」は、いったん上ってからは、ずっと下りのようだ。そして大きく右方向に曲がっていく。概ね順調で快適と言えなくも無い、ツーリングだった。体に叩きつけるように吹く風も、慣れてくると心地よい。


一点、気になったところは、僕らの進行方向に進む他の車両も、対抗車線を走るものも、道沿いで動く人影らしきものも、何も見当たらなかったことだ。

 たまに住宅と思われる石造りの背の低い建物を通り過ぎていくものの、そこでの生活のにおいというものは、飛び去る速度で一瞥しても、全く感じなかった。


<ジンさん。『こちら』の方ニ来るノは、ハジめてのようでスね。この地方ニは、『イド』がかなリ点在してルのです。デスから、『マ』の出現率も、相当高イ。人が住めルノ地域は、すごク限られてますネ>

 おっと、いきなりジカルさんの声が、僕の被ったヘルメット内に響いてきた。なるほど、インカム通しで、各々が通話できるってわけだ。


 見当たらない人影を、僕が不思議に思っていることを見越してのその言葉だけど、やはり「マ」と呼ばれた先ほどの「化物」(今は僕の背にくくられているけど)が跋扈している地域では、おいそれと出歩くことは危険なのだろう。「イド」というのは、その「マ」という化物が地表に出てくる所、と説明を受けた。巣、みたいなものなのだろうか。確かにそれは危険だ。では何で、ジカルさんはこの辺りにいたのだろう?


<私ハ、定例のパトろールでス。流石にコノ単車でスピード出してイレば、捕まることモないでスシね。それ用の武器モ、チャんと装備してまスデすし>

 ジカルさんが僕の問いにそう答えてくれるわけだけど、そうなると、彼女はその化物を駆除することを生業にしている方ということになる。


<私の住ム、『アクスウェル自治区』は、頑丈な壁でぐるりヲ取り囲まれてイマす。よっぽドのことが無い限リ、外部から侵入されるコトはないんですガ、最近では壁内にモ、『イド』が噴出すルことが多々あるんでスヨね……私はその『イド』活性化の理由モ掴もうと、こうしテ少し遠方まデ、出張っテいるワケなんでス……ジンさんを見かけたのハ、とってモ偶然だっタことデス>

 そうなんだろう。僕はおそらくかなりのラッキーだった。幸運に感謝しながらも、この、もう「異世界」と呼んでも差し支え無さそうな場所に飛ばされてきたのは、果たして幸運だったのか不運だったのか、考え続けるものの、まだ答えは出そうにないわけで。

 

ジカルさんの駆るバイクは、真顔の僕を後ろに積んだまま、快調に飛ばし続ける。


その少し前、アクスウェル地区自警、本部の南辺りでは……


「まず『膝部』をそこのジョイントにかませろ!! その後『両手』でそこのマウントを掴んで上半身も固定させる!! ぐずぐずするな!!」

長いトレーラーのような「キャリアー」の運転席に付けられた拡声器から、カァージの怒声が鋭く響く。


「は、はいぃー」

あたふたとした危なっかしい動きで、アルゼの乗る人型鋼鉄兵機「ジェネシス」は目の前の大型車両の荷台を目指す。

がに股でえっちらおっちらとゆっくり移動するその様子は、全身鎧を着せられて難儀している人、といった風情をかもし出していて何となく滑稽だったりするのだが……


(ゆっくりと膝を下ろしながら、腰と腕でバランスをとりつつ……)

コクピット内。複雑に入り組んだレバーやらペダル、ボタン、スイッチを両手両足、肘、膝、肩、顎、首や腰のひねりまで総動員して操るアルゼ。膨大な情報処理力が問われるはずだが、真剣にあちこちに視線を飛ばす華奢な少女の操縦は、よどみ無く、ゆるやかに舞いを踊るかのようだ。ジェネシスはだんだんとアルゼの意思通りのスムースな動作に変わってきていた。


(さすがだ。司令の言う通り『逸材』かもな)

カァージがバックミラー越しにその様子を見やりつつ感心する。


「あ、あのー、固定完了しましたけど……」

と、ジェネシスから少し困った感じのアルゼの声が発せられた。


「何だ? 問題があるなら手短かに言え!!」

「え、えーと……これって『娘さんを僕にくださいっ』て感じの恰好なんですけど……このまま街中を行くんですかぁー?」

土下座姿勢のジェネシスから情けない声が漏れ出てくるが、


「……問題なければ出動するぞ!! キャリアー発進!!」

無視してカァージはエンジンをかけた。軋む車輪の音を響かせながら、車両は前進し始める。


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