#122:刹那の、アクロポリス
アルゼは搭乗機を、いまだ上空に浮いたままの「骨鱗」から10mくらいの結構な距離で止めると、手にした「鞭」を回すのをやめ、静かに直立したままの状態でいる。何を狙っているんだろう?
そのままじりじりとした睨み合いの膠着状態に陥ってしまっているけど。もしやアルゼ……困ってない? ジェネシスからぶらさがった「鉄の尻尾」による策がありそうに思えたけど、よく考えてみるとそれでどうこう出来る事態でもないような気もしてきていた。まずい予感がする一方で、
視界を塞ぐ「黒い羽根」の動きはますます活発になっているよ。雨……というかそれよりも衝撃がきつい「あられ」みたいな物に全身を打たれているような状態……光力の弾丸で撃ち払ってやろうかと思ったけど、周りの人たちが既に行っているのを見て、そしてそれが「羽根」にさしたるダメージを与えていないのを見て取って、僕はそれを思いとどまる。その時だった。
「……」
ふと、皮膚の表面に「熱」のようなものを感じた僕は、つけていたグローブを外して掌を見やる。
「!!」
そこには青白い淡い「光」が掌、指の腹からうっすらと滲み出ているという、ん? と思わせる光景があったのだけれど。「光力」、だろうか。でも見たことない色だぞ……ピンクとか、黄色とか、緑とか、紫とか茶色とか。僕が「この世界」にやって来て見たのはそんな色たちだった。何と形容していいか判らないけど、それでも例えるなら「蛍光マーカー」によくある色と言えばいいか(よくはないか)。
いま、僕の手に意思とは無関係に染み出るようにして発せられている鮮烈なまでの「青白さ」。これは一体……
と、掌を広げてまじまじと見入っていたそこに、黒い羽根が衝突してくる。その瞬間、その羽根は熱したバターが溶けるかのようにその形を失って空中に霧散していったのだった……
ええ? 何これ? いや、使えるんじゃない?
ことこういった状況下に落とし込まれ慣れ始めてきていた僕は、すかさず目の前を舞い飛ぶ羽根の群れに向けて手を伸ばしつつ、握り込む。
「……!!」
掴んだものも、掴み損ねて手から逃げていったものも、その「青白い光」に触れたものは「分解」されている……っ!!
いける、と思い、もう片方のグローブも外した僕は、素手の両手を、うわああ、といった感じで無茶苦茶に振り回す。子供の喧嘩のように、ぐるぐる回しで。
……僕を中心とした半径85cmくらいだけ、黒い羽根の密度が和らいだ気がした。この「光力」……名付けて「ブルーワイトJET」なら、そしてそれを増幅することができるジェネシスと一緒なら……この窮地を跳ね返せることが可能なのでは?
何ともご都合主義的に宿り始めた僕の新・能力ではあったものの、事態は切迫している。とにかくアルゼの許へ急ぐんだ。




