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#012:迅速の、スマルト

#012:迅速の、スマルト


 川沿いの道を外れ、なだらかな斜面を少し上る。

 僕の予想に反して、そこに伸びていたのは、薄いベージュ色の何かで舗装された平坦な路面だった。アスファルト? いや、もっと何か、滑らかな、それでいて細かい砂状の粒が密に敷き詰めていられている感じだ。思わずしゃがみ込んでグラブを右のだけ外すと、その手触りを確かめてしまう。見た目からはつるつるした感触を予想したけど、付けた掌を左右に動かそうとすると、意外なほどの摩擦を感じた。

 車輪を持った物が走ることを想定した「道路」だ、これは。そして私見だけどアスファルトよりも走りやすそうに思える。

 この「世界」の科学力とか、諸々の技術力は、どうやら僕がやって来た世界と、そこまで大差は無さそうに思えた。あくまで、道路を見ただけの感じだけれど。


 丘陵地帯、と表現したらいいのかな。ほぼ直線の「道路」は幅としては「二車線」くらいの広さがあって、一度下ってからまた上がっていく道筋が、はるか遠くに見渡せる。

 でも、道の両脇は例の「青」色をした草や低木くらいしか見当たらず、あまり人が住んでいる気配は無い。ジカルさんが住まう「自治区」というのは、一体どこにあるのだろう。この道をずっと歩くとしたら、結構遠そうだ。

 先ほどの化物からの恐怖から逃れたと実感した瞬間から、身体にいかんともしがたい疲労感がのしかかって来ているのですけど。キロ単位で歩くのは、ちょっと勘弁といった感じだ。


「あ、あの、ジカルさん……」

 その辺りを聞こうと、改めて後方の彼女を振り返った瞬間だった。


「!!」

 屈みこんで何やらやっているジカルさんの前にある「もの」の威容に僕はたじろいでしまう。道端に停めてあったのは、大型の金属製と思われる機械? ……だった。大型のバイクのような佇まいだ。前後に太めのタイヤらしき車輪が見える。路面に近づくにつれて、スカートのようにボディが裾広がりになっているフォルムが、あまり見ない形だけれど。


「こ、これって……」

 その「バイク」の側に近づきつつ、僕が言い淀むのを察して、


「こレは、もう8年は乗っテル、結構な旧式ですネ。でもまダ快調に動クので、心配しナイデくださイ。後ろニどうゾ。『獲物』と相席ニなってシマイますけド、そこはゴ勘弁」

 ジカルさんは、額の黄色レンズのゴーグルを降ろして装着すると、何故か手鍋のような持ち手のついている、いやもう本当の手鍋なんじゃないの? と思わせる形状の金属製のものを取り出した。


「……」

 それをおもむろにヘルメットが如く、頭に巻き付けた布の上から躊躇なくかぶると、僕には、これは見慣れている、フルフェイスの白いヘルメットを放ってくれる。


「ジカル=ソ、アミシトロハ、パセロフェネ、ポル、ケソゼヘル」

 !!……持ち手と思われたところを下方に曲げると、そこに向かってジカルさんは何事か報告するかの口調で喋り出す。ああー、そこインカムみたいな感じになるんですね。でも二度見しても、やっぱりそれは手鍋であるわけで。そこを突っ込みたい気持ちを抑え込み、僕もそそくさとヘルメットに頭を押し込む。


「行きマしょウ。飛バせば、日没まデには着けルデしょう」

 「バイク」に跨ったジカルさんに後ろに乗れと促され、僕は先ほどの化物の死骸を背中に縄で括り付けられた状態で、その後部座席に真顔のまま乗り込むのであった。

 これから、どうなるんだろう? との詮無い思いは、凄まじい加速でカッ飛び始めた「バイク」の遥か後方に、景色と共に置き去られていったわけで。いや、ほんとにどうなんの?


 一方、北地区。


「おいおい、三匹いるよな? まいったぜ」

 ミザイヤが「クルマ」を降り立ち、ドアを盾にして、前方に見える黒い影を見やりつつ呟く。その顔はやっかいなことになったという苛立ちと困惑が、眉間の皺というかたちで表れていた。


「はっ!! ベザロアディム三体確認!」

 その真横に直立敬礼し、そう律儀に報告するボランドー。二人の部下たちは拡声器を手に、周りの住民の避難を促している。


「何とかやつらがここ(住宅地区)に達する前に来れたはいいが、この頭数と装備じゃ心もとねえ。……奴らの弱点かなんかはあんのか?」

 肘、膝に何かの樹脂で出来たものだろうか? 薄く軽そうなプロテクターを付けながらミザイヤが聞いた。その肩からは小銃のようなものがぶら下げられている。


「首の後ろにこいつをぶち込めば、たいがいのは一発で仕留められますが」

 ボランドーがクルマの後部トランクからごついスーツケースのようなものを引っ張り出しながら答えた。


「……確かだろーな。じゃあ俺が奴らを引き付けるから、お前はあの建物の上から狙撃しろ。伝達は『こいつ』で行う! さっさと上に登って組み上げとけよ!!」

 フリップアップさせたまま被っている、暗緑色のシステムヘルメットの隙間からインカムのようなものを引き出すと、ミザイヤはいきなり前方の「目標」向けて走り出した。


「うおっ、Ⅱ騎!! 早すぎますって!!」

 慌ててボランドーもケースをつかんで狙撃ポイントとなる建物を目指す。遠くから徐々に「魔物」の発する唸り声が近づきつつあった。


「こっちだぜ!! 来い!!」

 空に向けて小銃を撃つミザイヤ。その銃身からは黄色く光るエネルギーの「弾丸」が発射されている。

 「光力こうりょく」と呼ばれる、エネルギーをとある技術で「固めた」銃弾。貫通力は無いが、その衝撃は人間相手ならば、一発で意識を飛ばすほどの威力を持つ。


「……!!」

 「獲物」を視認した「魔物」三匹が一斉にそちらを向いた。艶の無い、漆黒の体が蠢いている。その中央、表情の読めない紅い瞳がミザイヤを見据えた。一瞬後、


「いくぜっ!!」

 自らを奮い立たせるために放ったミザイヤの声を合図に、魔物たちは走り出した「獲物」を追跡し始めた。


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