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#117:極致の、アムブロジア

 大概の者の視界を遮るかのように巻き上げられた青白い砂塵が、重力に引かれ、また落下を始める。露わになっていく「人」のような影。


突如降り立った「それ」の大きさは、せいぜい大柄な人間くらいのものしかないように見えた。しかしその全身から発せられる、何とも言えない「異物感」に、周りを取り囲むアクスウェルの面々は動けも、声も出せないままでいる。

 

「……」


 指揮車の窓から、思わず身を乗り出してそちらを見やるカァージ。その端正な顔にも驚愕が隠せないほどに浮かび上がっていたものの、場を統括する者として次なる対応を取るべく、可能な限りの情報を得ようと全神経を傾けているようだ。


(『骨鱗コツリン』……やはりはやはりだったが、『進化』のような変貌……奴は変化を続けている……いや、『元の姿』に戻ろうと、試行錯誤している……?)


 わからないが、と自分に言い聞かせるように呟くと、


<総員、生身の者は一旦下がれ。Ⅱ騎、アルゼ、二方向から『目標』へ>


 拡声機に向けて、手短に指示を出す。以前、「骨鱗」のその胸部腹部に開いた巨大な「口」に兵士のひとりが飲み込まれてしまったことを鑑み、まずは鋼鉄兵機を当たらせようという考えのカァージだが、


(『ヴェロシティ』の……ボディの『皮』根こそぎいかれたことも考えると、『ストライド』や『ジェネシス』でも肉薄しての戦闘は避けたい)


 「鋼鉄」でさえも自らの体内に取り込んでしまったその所業を思い出すに、迂闊に仕掛けられないという現状も苦々しく把握してはいる。加えてその体躯の小ささと、動きの速度などを見ても、なかなかに距離を取っての攻撃も難しいと判断している。


 そんなカァージの逡巡の間に、一行が取り巻いていたその真っただ中で、緩やかな動作をもって骨鱗はその所々羽毛に包まれた両腕を胸の前で組む。あたかも人間のような所作に、周りの者は逆に違和感を感じてしまうが、それだけでは無かった。


「また会ったな、『聖剣』。今度は白いのも引き連れての御登場とは……どうした風の吹き回しなのかい?」


「!!」


 いきなり、その黒い爬虫類と鳥類の中間のようなフォルムをした「化物」が、自分たちの扱う「言語」を持って語り掛けてきたのである。低音の壮年男性のような声は、落ち着き払った余裕をもって辺りに響き渡るものの、それだけに一同の驚愕の度合いは大きなものとなっている。


(言語野……というか何というか、そういった学習能力の高さも規格外だな。順応してくる速度が並みじゃない。しかし……なぜこちらにおもねってくる? 有無を言わさず根絶やしにしてくればと思うが)


 流石のカァージも、出方を伺いつつも初手をどうかますか、取っ掛かりも見つけられない状態でいる。そんな膠着状態に陥りかけそうになった刹那、


<アナタは何者!? 私たちに害なす存在ならっ!! 全力で排除するんだけれどっ!!>


 いきなりの甲高い拡声音が、轟く。


<……この前の私と思わない方がいいと思うよ……アナタに食われた右腕を、超絶合体によって復活、さらにパワーアップさせた、この『改修強化型』を……舐めるんじゃあないっ!!>


 勝手にいつもの熱血エンジンに火が入ったのか、アルゼのよく判らないテンションはいきなりのベタ踏み状態の模様であった。操る鋼鉄兵機ジェネシスは、これまた何の儀式なのか、左手を前面に突き出し、右手は天高くにかかげた、見栄を切るような姿勢に移行し、そのまま余韻を持たせるかのように止まっている。


(ま、まあ……また任せるとするか。いや、任せるしかないようだが)


 カァージは割と最近板についてきた丸投げ感を持って、立ち会いはアルゼに全振りしようと考え始めている。



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