#116:蒼白の、ヴォルテール
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(や、やっ、た……)
砂の中に顔を突っ込まんばかりに伏せていた僕だったけど、上目遣いで見た光景は、のっぴきならない戦場であることは勿論認識はしているものの、またも根源的なところを揺さぶってくるような、不思議で幻想的な感じを有していた。
流星群のような数多の「光線」がジェネシスの右腕から発射されるや否や、それらのひとつひとつが、「黒い羽根」のひとつひとつを正確に追尾し、そこに撃ち込まれるといった、まあ、想像の遥か上を行くような光景へと収束していったわけで。
す、すごいなこれ……と、例の「壁の敵」を屠った時と同じような、いやそれ以上の呆気に取られた感を大脳全部で感じながら、ぼんやりと黒い羽根が舞い落ち、視界が晴れていくのを見ていることしか出来ないでいる。
それにしても凄まじい「射撃」だった……数万はあっただろうひとつひとつの「光線」の軌道を操り、数万の目標を的確に捉える。数撃ちゃあの無作為発砲とは明らかに違うことは、素人の僕でもはっきり判った。とにかく無駄弾が無いんだ、恐ろしいことに。おそらくは金属生命体のサポートはあったとは思うけど、それでも、ね。尋常じゃあない。
<……ジンありがと。あなタのおかげでー、『回避させる軌道』が減ったかラ、うまいコとやれたわー>
そんな超絶射撃をやってのけた当のアルゼは、割と平時的「のほほんさ」を保ったまま僕にそんな言葉をかけてくるけど。いやいや、いつもながら買いかぶりすぎだってば。
驚愕に伴う沈黙が、ようやくその、のんびりとした声によって打ち消された。やっぱり、アルゼは何か持ってる。その普段の天真爛漫さと、戦闘時のブレない判断力と闘争心に、接する人は皆、引き込まれていく感じだ。かくいう僕がその最たるものかも知れないけど。あ、いや、そんな思考をしてる場合じゃないか。僕もみなさんのお役に立たないと。見るとアクスウェルの皆さんは、再び救助活動や索敵やらに素早く移行している。
青白い砂漠はまたしても静寂に包まれていくようだった、けど、やはりというか、嵐の前の的なものだということは、僕以外の人にも薄々感づかれていらっしゃるようであって。そんな詮無い思考を巡らせていた。その瞬間だった。
<何か来る!! 衝撃に備えろっ!!>
カァージさんの鋭い声が飛ぶ。場に走る緊張。
……僕の視界の右隅に、「それ」が動く挙動がたまたま入った。だから一瞬早く、自分の身体を後方へとのけぞらすことが出来たのだと思う。
「!!」
次の瞬間、巻き起こる「砂吹雪」。僕の体のすぐそばで、それは激しい衝撃音と共に起こったわけで。吹っ飛ばされていく視界の中で、黒い、人型の「もの」が砂地に突きたつようにして現れていたのが、ほんの少しだけ確認はできた。そして体に感じる何とも言えない悪寒のようなものが、それがいつぞやの「骨鱗」に他ならないことを物語っていた。
砂地に尻餅ついて、さらに後方へと引っくり返った状態の僕は、慌てて体勢を起こすと、その「もの」の方へと視線をやる。いや、自然と視線が引き寄せられたと言った方がいいかもだけど。
「……」
砂の上に素立ちの黒い「人影」は、いつぞやに見た「骨鱗」に違いはなかったけど、何となくの違和感。細部が……違っている?
片方だけが露出している、爬虫類然としたその瞳は前と変わらなかったものの、その下には黒い「嘴」が前方へとせり出している。そして前は「鱗」一辺倒だったその身体のあちこちを「黒い羽毛」のような質感のものが覆っている。
そして背中には巨大な翼。「鳥」だ。もうこれは「鳥」。「爬虫類」から「鳥類」へと……順当といやあ順当な進化を遂げていたわけだけど、それが分かったからといって、取るべき対応がまったく掴めない僕がいる。




