#110:根絶の、アメシスト
<撃ェァァァァァァァァァァッ!!>
突拍子も無い気合いの張り上げ声が、暗闇に包まれている「砂漠」にこだましていく。
ジェネシスを古来より見たこともない射撃姿勢に持って行っていたアルゼは、その兵機の「糸」状と化した右腕前腕部に注ぎ込んでいた「光力」という名のエネルギーを、一斉に解き放つのであった。
「!!」
張り出した「糸の束」、その静電気を孕んであちこちに張り出している一本一本の末端から、遠目には視認できないほどの「光線」が射出される。追尾機能でも有しているのだろうか、上下左右に無秩序に放たれたと思われたそれらは、一瞬の空中での軌道修正を計ったかのように溜めをつくったかと思うや、全てが強い指向性をもって、一点へと集中していく。
目標はもちろん、先ほどから沈黙の鎮座をしている「壁」状の「マ」。
(しかし……先ほどの『射撃』とどう違う? またもヤツの『体内』に取り込まれた挙句、跳ね返されるのでは)
指揮車の中で遮光バイザーをその鋭い目の先に降ろしていたカァージが、その様子を見て思う。先刻からあまり変化していないやり口に疑問の体だが……
<……一弾、一殺……>
またも妙な余韻を伴ってジェネシスから発せられたアルゼの声に、驚愕を通り越して無表情へと移行してしまうカァージ。
「……!! ……!!」
そして幾百万の微細な「光弾」をその黒い鏡面で受け止め呑み込んだかに見えた「壁」が、不気味な蠕動を見せる。
次の瞬間、まるでそこには何も無かったと言わんばかりに、「壁」の姿はかき消えると、周りで行方を見守っているばかりだった一同から、驚愕の声だけが漏れ聞こえてくる。
<消えた……ぞ? カァージっ>
ミザイヤの乗る「ストライド」からもそんな困惑げな拡声音が響いてくるが、一部始終を注視していたカァージにもわけがわかっていないのが現状であった。
しかし、よくよく「壁」のいた砂の上を見てみると、そこだけ黒い砂のようなものが不自然に平たい山を形成していることが見て取れる。光を反射していない、黒く細かい「砂」。
(まさか……あの『砂』が、奴の成れの果て)
「まさか」と思考は紡ぎつつも、カァージはおそらくはそうなのだろうとの確信を得ている。そしてそれをやってのけたのが、まだ幼さの残るアルゼという少女だということにも改めて、もう「畏怖」のレベルの感情を抱いている。
<奴は、細かい粒子状の体を、磁力か何かで、結び、浮かせていたと思われます……斬撃・打撃をすり抜けることはもちろん、迂闊に光力の束を撃ち込めば、その「粒子」間で乱反射・増幅させ、撃ち返してきます>
そんな中、いつもの天真爛漫な感じとは異なった、知性を感じもさせる口調でアルゼの解説が為されていく。
<だから、その『粒』ひとつひとつを狙って数千万の極小の『光力線』で一斉に撃ち貫いた……射角さえ間違えなければ、粒子にダメージを与えること、それは可能>
と、言うは言っているものの、それ、数千万全部の軌道を調整したりしてやんなきゃだよね? そんな制御できるの? あ、いや、それオミロに丸投げ下請けさせてんだー、ああー、さすが「聖剣」。ヒトならざるわぁー、と、ジンなどは真顔でふーんふーんと納得してる体を醸し出すより他は出来ていない。