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#011:開幕の、ファイアーレッド

#011:開幕の、ファイアーレッド



「ジンさン。『アソォカゥ』はここから相当遠イわけですけド、あなたハ、どちらからココニ行ったノですカ?」

 「ジン」と名付けられた僕は、ジカルさんに促されるまま、渓流を離れ、しばし木々に囲まれた小道に沿ってついていく。茂みを形作る低木も、周りを覆うかの大木も、皆一様に、青い葉を生い茂らせているのだけれど、やはりそれには違和感を感じさせられているわけで。

前を行くジカルさんは、仕留めた「獲物」の口を結んだ縄を無造作に肩に掛け、割と力強い歩様を進めている。


 「アソォカゥ」とは、先ほどジカルさんが、僕の出身と勘違いしていた「国」? あるいは「都市」? の名前っぽいけど、もちろん僕はそんな場所は記憶にない。


「……実は、その辺りのこと、覚えてないんですよね……何でこの場所にいたか、とかが……」

 「この場所」っていうのは、この全く見当がつかない「惑星」? ……ということも言外には含ませたんだけど、そこはまだ伝える必要はないかとも思う。

ここが地球上のどこかであってくれとの、僕の果敢ない願いをまだ、撤回して欲しくないから。タチ悪くてもいいから、何かのどっきりとかそういうのであっても、それはそれで構わないんだけどな……などと、僕の思考は定まらず、ふわふわ浮いている。この身体のように。

それでも、重力の低さに少しづつ、僕の体は順応していっているようだ。例えば、自転車の乗り方を徐々に体で覚えるかのように? 全身の力を極力抜いて、だらっと無気力に足を引きずるかのように歩こうと意識することで、意外と歩きが安定してくることを僕は学習した。気を抜くとスキップみたいになってしまうけど。


「……今日は、わタシの暮らす『自治区』にご案内シますので、そこで休まレルといいデショう」

 後ろの僕をちらと振り返りつつ、ジカルさんはそんな優しい言葉を掛けてくれる。なぜ日本語(のような言語)か、というような疑問は、もはや僕の中ではどうでも良くなりかけつつあった。

 意思の疎通。そのことが出来るということが、周りのことがわからない場所に放り込まれた時、何より安心することなんだということを、いま僕は身に染みて実感している。


「……今日ハ、別の任務でコチらに来テイタのですが、タマタま装備を持ってイテ良かっタ。ジンさンが、あの『マ』に襲わレているのヲ見て、ナゼこんなトコろで? と少シ焦ってシマイましたガ」

 ジカルさんの物腰は柔らかい。僕を気遣ってか、殊更ゆっくりと喋ってくれているように感じる。


「あの、ジカルさん……」

 僕は意を決して話しかける。ん? と小首を傾げながら振り返るジカルさん。


「た、助けていただいてありがとうございました」

 駄目だ。僕の素性を語ろうとしたが、すんでの所で止めて、お礼を言うにとどめてしまった。まだ僕は、何か懸念しているのか? こんな、親切な人を前に。

 そんな僕の心中を気にせず、アアー、何でも無イノことヨ、と軽く手を振って応えてくれるジカルさん。


 青い木々に覆われた道の周りが徐々に開けていく。



「『新型』の整備は終わっているか!?」

 第7ハンガー。カァージのめったには出さない大声がこだまする。


「Ⅵ士!! もちろんですぜ!! こんなモノ目の前にしちゃ、真っ先にいじりたくなるのが俺らの商売病ですからねえ。とっくに組みあがってエネルギーも充填してありまっせえ! さあてパイロットの嬢ちゃん! 思う存分暴れてきてくれていいぜぇ、ぶっ壊れてもすぐ直してやっからよお!!いっちょがんばってこいやぁ!!」

 油まみれの髭面、すりきれた作業服の男がにやりとしつつそう答えた。その背後から整備士と思われるつなぎを来た幾人かも、カァージとアルゼに向けて親指を立ててくる。


「は、はははははいぃー。あ、ありがとございますぅ」

 まだあわあわ言ってるアルゼにヘルメットをがぼ、とかぶせ、


「早く乗り込んで起動させろっ!! 舗装道路が切れる所まで『キャリアー』で運ぶ!!南地区から反時計回りで北上するルートを取り、敵を殲滅するのが目的だ!! おそらく指令もそう考えているはず。いいか、私がサポートで付く。命令には迅速かつ正確に従うこと! 先にキャリアーに乗って待機してるぞ、アルゼⅩⅡ士! 『新型』の威力を見せてやれ!!」

 ばん、とアルゼの背中を叩いてから外に駆け出すカァージ。よろよろとしつつ、アルゼも「新型」向けて震える脚で歩き出す。


 「新型」……その威容は、まるで玉座にふんぞり返って座っているかのように固定されていることにより、さらに見る者に威圧感を与えてくるかのようだ。

 「座高」……と言ったら良いだろうか、腰を降ろした姿勢でも、その頭は見上げるほどの高さにある。優に大人五人を重ねたくらいと思われる。

 「人型」と称されるだけあって、その体躯は、この地に住む人間のそれに近しいように見える。長い手足、小さな頭部。全身銀色の鎧兜を装着した「ひとり」の大型の「騎士」が、ハンガーの薄暗闇の中に鎮座していた。


(ま、まままままだ心の準備が出来てないよぅ~)

 コクピットに向かって伸びるタラップを危うい足さばきで上りながら、


(で、でもこんなにいろんな人たちが期待してくれてる!! 応援してくれてるんだもん!!)

 アルゼは何とか気持ちを切り換え、ヘルメットをしっかりとかぶり直す。そして、


(もおおおおっ、やんなきゃやんなくちゃ!! そもそも自分で選んだ道でしょうが!!しっかりアルゼ!! がんばれアルゼ!! よおおおおし)

 自分を鼓舞した一瞬後、凛々しい顔つきへと変わったアルゼは、


「やるぞおおおおおおっー!! 『ジェネシス』!! 起動ぉっ!!!!」

 コクピットに飛び込むと、おたけびにも似た大声で叫んだ。

 ハッチが重々しい音を立てて閉まり、鈍い銀色に光る機体―最新鋭機「ジェネシス」の真っ暗だったコクピット全体に息吹が吹き込まれたかのように、エネルギーランプが灯っていく。そして、


「アルゼ=ロナ・ストラードⅩⅡ士!! 出ますっ!!」

 アルゼ初めての戦いが始まるっ……!!。


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