#107:空裂の、ジェードグリーン
▽
腹の辺りに震えが来ている。
突如砂の中から現れた「壁」のような「でかぶつ」に泡食ったのも束の間、それっきり沈黙? し続けているそのモノリス状のものに、何か根源的な恐怖を感じている僕がいる。
無機的、かつ10mはありそうなその巨大な見た目だからだろうか、場違いな感覚を脳が咀嚼しきれてなくて、ぞわ、という寒気も、肩下あたりのにも感じてしまうのだけれど。
びびっている場合じゃない。僕もお役に……とか、ついさっき決意してたじゃないか。「トレーラー」の荷台の上、既に僕用の射撃台みたいになった「L字冶具」にお借りした「ライフル」状の銃を乗せる。射角は水平方向160°くらい、垂直方向30°くらい? そのくらいの稼働域が見込まれるっ!!
冶具に身を隠すようにして猟銃を構える僕。その後ろで、金属が擦り合わさる音が響いてきた。ジェネシスだ。
<ジンはぁー、ソこにいてね。動いたラ踏んじゃいソう……>
背後から物騒な拡声音が響いてくるけど、集中だ。僕は髪の毛ほども身じろぎしないよう細心の注意を払いながら、最小限の動きで銃口を左前方に見える「壁」に向けて合わせていく。
それにしても不思議な物体だ。僕から見るとこちらに真っすぐ向いているように見えるけど、皆さんのやり取りを拙いヒアリング能力ながら聴いていると、それは様々な角度から包囲している全員にとってそうらしい。
黒い、大理石のような表面質感の「壁」には、冶具に姿を隠し、猟銃を構えている僕が映っている。距離的には20mくらい? 向こうさんは突如土中(砂中?)から出現してのちは、完全に静寂を保っている。
<……ジェネシス、射撃を開始します>
アクスウェルの言葉も、僕はもう結構聞き取れるようになっている。「日本語」の時とは異なるアルゼの凛々しい口調に、少しギャップを感じたりして勝手にどきどきしたりしてるけど。
……いや、してる場合じゃない。
「壁」の鏡面には、僕の背後の、鋼鉄兵機「ジェネシス」の滑らかな挙動も映し出されている。「武器弾薬供給」も担う「トレーラー」の一角が跳ね上がるようにして持ち上がると、そこには僕の借りた物の数十倍はある「ライフル」が天を指している。
<……>
荷台からどっこいしょ、といった人間臭い動きで砂上に左足を下ろしながら、ついで、みたいな感じで右手にその「ライフル」をひょいと掴むジェネシス。続いて右脚も下ろしつつ砂面に膝を突くと、左膝を立てた状態でライフルを持ち替え、ストックをロボの右胸辺りにきちんとつけ、右頬らへんも銃にくっつける。肘は落ち、脇は締められ、やや前傾。
……うん、普通に見ても玄人っぽい手慣れた射撃姿勢で、それだけでも凄いんだけど、これ乗ってるロボを操縦してやってることなんだよね……
改めてどう制御してんの? 右腕はさらにあのオミロが変化したものだし、との思いが脳を埋め尽くしそうになるけど、それは抑えて僕も正面の敵に照準を合わせる。
<……よいやさぁっ!!>
謎の掛け声と共に、ジェネシスの銃から太いピンク色の「光弾」が撃ち放たれたようだ。目では追えない速度で、眼前に居座る「壁」に、それは吸い込まれていく。
「!?」
が、だった。結構硬そうなその鏡面を一発で破壊出来るかな? みたいなところを注視していた僕だが、その見方は的外れだったわけで。
「弾」が表面をすんなりと通過したと思った次の瞬間、
「!!」
細い「糸」状になったピンクの光線のようなものが、その「面」からこちらに向けて放射状に何本も射出されてきた!
僕方面に向かってきたその「糸」は運よく冶具に当たって防がれたけど、途端にすごい震動が襲ってきて、僕は銃を構えたまま後ろに引っくり返ってしまう。
何が……起こったんだ?




