#100:百花の、サクソニーブルー
一行の周りを囲むようにして、トカゲ型の怪物が作り出す「輪」が狭まってきている。
(『骨鱗』が周囲の個体に感応して、規律ある集団行動を取らせることは既に分かっている。問題はその『統率感』にプラスして、その場での最適と思われる『個』のアドリブ的行動までもしてくるようになっていることが厄介だ。まずはこちらの戦力を測っているかのような絶妙の頭数で先制を仕掛けてきていることも気に入らないが)
表面上は常に沈着冷静に思われる指揮官カァージであったが、その胸中、頭の中は意外と激しい感情が渦巻いている。それを自己の内部で完璧に処理してから『最適解』を放つので、「理」と「情」がうまい具合にミックスされた指揮が生まれているのであった。
「理」一辺倒のルフトのような人材も勿論不可欠ではあるが、現場にほど近い場では、カァージのようなタイプの方が信頼が厚いのは確かで、最近ではこうした大掛かりの作戦の指揮を任せられるに至っている。若干18歳。天才パイロット・アルゼ13歳に負けず劣らず非凡な才能を持つ、アクスウェルの次代を担う重要人物なのである。
そのカァージから、一歩下がれの命を受けたアルゼは、自らの機体、ジェネシスをふわりと後方へ跳躍させ、怪物たちの包囲から間合いを取り直す。
<カァージさんっ、先ほど眉間に撃ち込んだ時の挙動が何か、『骨鱗』の変な鱗に弾かれた時のと似ていましたっ!!>
すかさず返って来るアルゼの推察に、よく覚えてるなと内心呆れつつも、それに劣らぬ凄まじい演算速度で戦術を組み立てると、バックアップに当たっている猟兵たちに指示を飛ばしていく。
「おおー、さすが」
ジェネシスのコクピット内で次なる算段を練っていたアルゼは、猟兵たちが「炸裂弾」を射出し、怪物の体表の皮一枚外側でそれらを破裂させるのを見て、素早く自分もライフルのマガジンを取り外し、「右腕」と化している金属生命体オミロに言葉をかける。
「ライフルと『直結』してっ!! そしてそのまま『徹甲』モードの弾丸にシフトさせてもう一度ヘッドショットを狙う……」
<いやいヤイヤ!! 何ですの藪から棒にぃ~!! 右腕に変折するだけゆうテましタやん!!>
その圧倒的無茶振りに対し抗議の声を上げかける「右腕化」したオミロであるものの、
「できれば『被帽』を希望……何事もやれば出来る……やらねば……どうなる?」
ちょっと凄みすら感じさせる掠れ声でそう恐喝めいた返答をされると、えー、かないまへんわーみたいな諦めの境地でその要求に応えるために持てる能力を総動員させるしかないようであった。




