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第六章:学ぶ<ラーン>

第六章:学ぶ<ラーン>


「……次、その呼び方したら、僕は今後「ナタリアさん」って呼びます」

「今のは嘘だから。じょーだん。だから「お母様」でお願い」

「僕だってレイとしてはまだ三歳です。反抗期に突入しますよ?」

「……それはそれで興味深い……」


 そういい椅子に深く腰掛けたまま、真剣な面持ちであごに指を添えるお母様。

 僕はただ、じとーっと半眼でお母様を見つめているとやがて観念したかのように両手を挙げる。


「もう言わないわ。……(そんなに言って欲しくないのなら、最初から「英雄になりたい」なんて言わなきゃ良いのに……)」

 

 どこか拗ねたように唇が素早く動くが、僕の耳はそれを完全に拾ってくれる。


「「ナタリアさん」、何か言いました?」

「何も言ってませんから、本当にやめてください。ごめんなさい」


 「ナタリアさん」は実の息子相手になみだ目になって謝罪する。

 いじめすぎたつもりは無いが、「ナタリアさん」はどうも涙もろい気がしてならない。なにか罪悪感がふつふつと己の中で渦を巻く。


「わ、解れば良いのです。それで……今日は何を教えてくれるのですか、お母様」


 「ナタリアさん」から「お母様」へ戻った事で、泣きそうだった顔がパーッと晴れていくのが解る。

 我が母ながら、実に解りやすい。


「じゃあ今日はおさらいをしましょう。……コッチコッチ」


 そして上機嫌になったお母様に手招きされ、指差された箇所は、椅子。


 ではなく、椅子に座った母の膝。


 十八(黎として十五年、レイとして三年)年も生きてる人間に対して、それはどうなの、と思いつつ、脚は自然と母の元へと進み、お母様の両足にまたぐ様にして座る。

 こうしないと、何も教えてくれないのだ。最早なれたが、最初は恥ずかしすぎて、教わった内容が全く頭に入らなかった。

 慣れというよりも麻痺に近いのかもしれないとさえ思っているのは内緒である。


「ん~……スゥハァ。レイは良い匂いがするわー……。お日様的な何かね」


 後ろから抱きしめられ、首筋の匂いを嗅がれ、若干震える。否、鳥肌がたつ。


「そんなにお日様の匂いが好きなら、引きこもってないで、外に出てくださいお母様。つい先日も、ゾルスさんに「ナタリア様は何か具合でも悪いのですか?ココ数ヶ月姿をお見せになられませんが……」って心配してました」

「……いや、ほらぁ。外に出ると陽の光が眼に痛いじゃない?アレが嫌なのよ」

「何ヶ月も変性魔術で作った擬似太陽の下で過ごせばそうなります。ですので、たまには外に出て日光浴でもしてください」

「……レイが冷たい……。オズに言わなくちゃ……」

「冷たくなどありません。あとお父様に僕の小言を言うのもやめてください。苦笑して聞き流しておきながら、次の日の剣に如実に現れますので。本当にやめてください」


 初めての魔術講義をお母様から受けた際、最後まで膝の上に乗る事を拒否した次の日。剣を教えてくれていたお父様が豹変し、容赦しないし、へばっても襲ってくるしで、散々だった。

 しばらく理由がわからなかったが、それがお母様が口にする僕のお小言であるとわかった日には、「どんだけ嫁ラブなんだ、この横乳大好きエロ親父」とか思ったのも秘密である。


「ふふん。じゃあ、私の好きにさせてもらうわ。じゃないとついうっかり、オズに愚痴っちゃうかもしれないもの」


 僕の短いため息を合図に、お母様が抱きしめる腕の力が強くなり、背中に二つの軟らかい感触と、微かに肌越しに感じるお母様の心の音に僕はただ早く終われば良いのに、と内心で思いつつ、その時間が一秒でも続けば良いな、と願ったのは最早企業秘密である。


 そしてそんなお母様が「グヘヘ」とか「ハァハァ」と言ったり、僕の肩によだれをかけたりとか、そんな事は一切無かった。

 一切無かった。大事な事なので三度言おう。一切無かった。

  

「レイィ……、グヘヘ。……(ジュルリ」


 ……一切無かった。


○●○●○●○●○●○●○●○●


「ごめんなさい。少し、飛んだわ」

「……何か、キメてるんですか……お母様は……」


 肩についた「何か」を払いのけつつ、ため息をすると、眼前に一冊の本が宙に漂い見えない何かが表紙をめくる。開かれたページには何も記されていない黄白色の羊皮紙。

 それがお母様のいつものやり方だった。曰く腕が疲れる、との事。

 

「それじゃあまずはこの世界の魔術について、レイの知っている限りの事を教えて頂戴。何度も読み聞かせしたのだから、順番もわかるわね?」


 急にスイッチを切り替えないで欲しい。その差にいつも一筋の涙が流れるのですから。


「……まず最初に、破壊魔術。己の魔力<マナ>を消費して、直接的な攻撃をする魔術……」


 そう口にすると、開かれていた無地のページに文字が浮かび上がる。でも、それはページの上半分までしか埋まらず、下半分が未だ空白のまま。

 

「そうね。他に何か特質すべき事は?」

「属性<エレメント>と呼ばれる火水風土雷の五つの属性に何れも分類される」


 そこまで口にすると、残りの下半分も文字が浮かび、僕が口にした内容をより細かく、記載する。


「各、属性<エレメント>には各々、優位に立てる属性と、劣位となる属性があるわね?」

「火は水に弱く、水は雷に弱い。雷は土に弱くて、土は風に弱く、風は火に弱い……」

「正解!さすが私の子!」


 何度も読み聞かせされたんだ。初歩の初歩で間違えるわけがない。


「それじゃあ次の魔術は?」


 再び眼前の本のページがめくられ、また無地のページが現れる。


「治癒魔術。術者の魔力<マナ>を消費して、対象の傷を癒す魔術」

「そうね。特徴はなんだったかしら?」

「破壊魔術の属性<エレメント>とは異なる、もう一つの属性。聖を基点とした魔術で、一部のモンスターには破壊魔術以上に効果的な魔術となる」


 眼前の無地のページは僕の言葉を記録するかのように、再び文字で埋め尽くされて、また無地のページを開く。

 そしていつのまにか頭に手を添えられ、なでなでされていたが、続ける。


「次は、再生魔術。術者の魔力<マナ>を少量と、対象者の命力<ヌル>をもって再生を促進する魔術。怪我の度合いにもよるけど、骨折などは治癒魔術よりも再生魔術の方が有力視される」


 命力<ヌル>の意味が解らず、説明を受けて最初に思ったのは「寿命」を意味する言葉なのだとも思ったが、そうではなく魔力<マナ>と対を成す命力<ヌル>という者が存在するらしい。

 考え方としては、RPGに出てくるキャラクターのHPみたいなものだと思う。体力という理解でもいいはず。モンスターから攻撃を受けて、HPは削れても、本来その人が持っている寿命を削っている訳ではない。ただ、RPGでもあるようにHPがゼロに成ると「死亡」という扱いになるが、それはつまりこの世界で言うところの「命力<ヌル>が尽きて、身動きが出来ない所に止めを刺された」というだけの事らしい。

 

「特筆すべき点は?」

「レアリス教の聖職者様が使うのがこの、再生魔術。治癒術士が使うのが治癒魔術で、この二つの差異は魔術師以外にはあまり知られていない事」


 このファッゾ村がある国を聖王国オルテンシアと言い、その国教とも言える、レアリス教。このレアリス教に仕える聖職者達が使う魔術らしい。 


「次は、召喚魔術。異界の門を開き、そこから己の意に従う獣を呼び寄せる魔術。術者の魔力<マナ>や、唱えた詠唱文によって何が呼ばれるのかが変わり、召喚中は常に術者の魔力<マナ>を消費し続けます」

「……はい、では賢いレイに問題です。同時に同じ詠唱文を唱えた術者が、同じ召喚獣を同時に呼び出す事は可能でしょうか?」

「不可能です。異界において、同じ召喚獣は一匹しか居ません。どちらかの召喚魔術が不発に終わるか、運が良ければ別の召喚獣が選ばれます」


 僕の答えが満点だったのか、お母様の頭を撫ぜる手は止む事が無く、笑みも絶やさずにいてくれた。

 そして眼前に漂う本も上機嫌(?)に次々に僕の言葉を記していき、ページをめくる。


「次に、死霊魔術。これは異界ではなく、現界に存在している死した存在を使役する魔術で、先にあげた治癒魔術を天敵とする魔術です」

「特筆すべき点は?」

「上位の死霊族には生贄が必要で、それに成功し生み出された死霊族は聖属性以外の魔術を抗魔<レジスト>する者が多いです」


 この世界における死霊族のうち、下位に当たるゾンビ、スケルトンなどはモンスターとしてカテゴライズされるが、術者が明確な意図を持って生み出した上位の死霊族は言葉を解し、何気なく街に溶け込み暮らしており、特に問題を起こさないのであれば、民としてカウントされるらしい。

 笑みを絶やさず、うんうんと二度うなずくお母様。どこか自慢気なのは、気のせいでしょうか。


「次に、変性魔術。明りを灯したり、物体を浮かせたり、近づく足音を消したり、といった変化を作る魔術です。自身にも、対象にもかける事ができる魔術で、使い方次第では破壊魔術より奥が深い魔術です」

「そうね。帝国の暗殺者達はこの魔術の習得を最優先にしているくらいよ。レイも狙われる時の事を考えて、しっかり対処なさい」


 いつになく真面目な発言に、撫ぜている手も止まり、笑みもどこか真剣なものへと変わっていた。

 

「はい。まぁ……、狙われるような事態には早々ならないと思いますが……」

「そう言っているような人が、案外差し向けられたりするのよ。ましてや……えいy――「「ナタリアさん」?」


 全てを言い終える前に言葉をかぶせ、「ナタリアさん」の言葉を封殺する。

 「ナタリアさん」は目に見えて落ち込み、カクンと頭を垂れていたが、構わず続ける。


「次に強化魔術と弱体魔術。身体強化や、弱体をつかさどる魔術で、感覚さえも鋭敏にする事が出来、逆も可能です。また戦闘中にも使えるようにと、無詠唱や短い詠唱の物が多いです」


 RPGなどで言うところの、バフとデバフの事だと思う。

 オズこと、お父様曰く「強化魔術さえ極めてれば、他はどうとでもなる」との事。まさしく「脳までも筋肉で出来ていそうな素晴らしい騎士」である。

 そして「ナタリアさん」は未だ復帰できずうなだれていた。そこまで呼び名にこだわりますか……。


「……最後に、始源魔術。全ての魔術師がコレに至ろうとして、日々研究を続けている、<キャスターズスペル>。それに至る事が出来るのは極一部の極めて少ない魔術師だけで、自分自身という個人しか使えないたった一つの魔術……。「お母様」が使う双呪<デュアルスペル>もコレに該当する、とお父様から聞きました。……その、まぁ。……尊敬しています」


 最後くらい花を持たせるべきだろう、と前々からお父様に聞いていた事を口にすると、解りやすく快気して僕を抱きしめ、後ろから肩越しに顔を摺り寄せられる。

 

 正直、とっくに親離れ……は、前世で済ませている(と思っている)ので、気恥ずかしさしか残っていないが、お母様にとっては僕が始めての子である以上、必要なのは子離れの方かもしれない、と心に思いつつ、この甘い香りがする状況がコンマ一秒でも長く続けば良いと願ったのは、最早国家機密だろう。


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