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第十章:卵


第十章:卵


「始源へと至りし恩恵よ 我が両手に 術を宿せ<デュアルスペル>」


 周囲の木々が一瞬で炭と化した一帯で、私は黒い三メートル弱の鉄くずを見据える。

 体内には多量の魔石を蓄え、高位魔術を単体で発動できる使い捨ての道具。ソレで居て、倒すには何十人もの魔術師、同じく何十人もの兵士を要す。


 ……理由は簡単だ。

 

「炎よ 烈火となりて 打ち滅ぼせ!<ファイヤピラー>」


 本来ならイメージした手の中に拳より少し大きい火球が一つ召喚され、狙った箇所に飛翔する魔術だが、私が唱えた<デュアルスペル>の影響で、両掌に火球が生じる。

 私が魔術を行使した事に気付いたのか、遠くにはいても確かに「目が合った」とそう理解した。

 その視線に畏怖を覚えつつ、両掌を同時に鉄くずへ向け振るうと、掌から火球が飛び出す。

 二百メートル程だろうか?一秒もかからず、鉄くずへと至り、爆音と共に火という花が咲く。


 鉄くずの放った熱にも負けず、かすかに残った木々に火の粉が飛び散り、葉を燃やす。


 やがて煙が止んだ先には爆発が生じる前となんら変わらず、鉄くずが立っていた。

 いや、かすかに残った煙の影響で、可視化された魔術障壁を宿す様子が見て取れる。


 魔術を完全に遮断するソレを見て、私はため息しか出なかった。

 どの様な魔術を用いてもアレが顕在である以上、届かない。全盛期であればあの人形の魔力が底をつくまで障壁を維持させて、最終的に破壊する事も可能だったかもしれないが、今更それを言っても無駄な話だ。


 魔力の消費が激しかったせいだろう。身体がふら付き、視界が霞む。


 見上げた空は夕刻から夜に変わる黄昏時で、星もまだあまり見えず、月はまだ光を宿していない。

 今が最も暗い時間帯。そんな答えを導き出すのは決して瞼が重くなってきたからじゃないだろう。

 

 眼前の鉄くずの詠唱がおわり、口角からレンズのような部位を出し、その先に赤く輝く魔方陣が展開する。

 その光が爛々と輝く様を視て、周囲が赤く染まるが夕日の色とは馴染んでいないのか、どこか際立って見え、同時に酷く不安になり、立っている事もままらなくなって終いには意識を手放した。

 

 その瞬間に、光と熱の帯が私へと飛来するのが見え、心の中で最愛の人、二人の笑顔を垣間見た気がした。

 そのうち一人の小さい方は最後にもう一回頭を撫ぜたかった、そんな思いに駆られ、自然と頬が緩んでしまった。


「寸刻の 守りと加護の盾となれ!<オプロン>」


○●○●○●○●○●○●○●○●


【ピド・ロゥ:対象の身体速度を上げる強化魔術。ピド系最下位の魔術。初級下位魔術。詠唱説:<駆けよ 一陣の風と化せ>】

【※防御力が著しく低下する。】


 自警団のおじさんから教わった魔術。


【ワード・ロゥ:対象の物理攻撃力を上げる強化魔術。ワード系最下位の魔術。初級下位魔術。詠唱説:<わが身に宿りて 力と成せ>】

【※身体速度が著しく低下する。】


 初めて魔術を使った、盾を持っていた自警団のおじさんから教わった魔術。


【エアロフィック:地面から浮く事が出来る変性魔術。飛翔する事は出来ない。高高度からの落下や、足音を消す際にも使用できる。中級中位魔術。詠唱説:<至れ 歩みの無限の境地>】

【※落下する高度や、足音を消す時間によって消費する魔力量が跳ね上がる。】


 村に居る元帝国兵と噂の自警団員のお兄さん。 

 

【リリク:対象の聴力を上げる強化魔術。初級下位魔術。詠唱説:<霧散せし 音源よ わが身に集え>】

【※自身にしか使う事が出来ない。効果が続く限り、嗅覚が低下する。】


【ルクス:対象の視力を上げる強化魔術。初級下位魔術。詠唱説:<濃霧を超えよ 我が眼力>】

【※自身にしか使う事が出来ない。効果が続く限り、味覚が低下する。】


 自警団に身をおきつつも、狩人として生計を立てている弓使いのお姉さんから教わった魔術。


 そして――。


【オプロン:任意の場所に強力な魔術結界を展開する強化魔術。込めた魔力量によって、強度と持続時間が増す。上級中位魔術。詠唱説:<寸刻の 守りと加護の盾となれ>】

【※どれほど魔力を込めても、五秒しか持たず、どの様な初級魔術を受けても一度で霧散する。】


【ファイヤピラー:対象の元に素早く飛来する火球を飛ばす。対象の元に飛来すると激しく爆発する。火球に込めた魔力の総量に応じて、爆発も大きい物へと変わる。上級下位魔術。詠唱説:<赤炎よ 時を刻んで 業火へ至り 爆砕せよ>】

【※掌に火球が召喚され、手が触れた箇所に付着し、掌から離れると三秒後に爆発する。爆風に巻き込まれる可能性がある。】


【デュアルスペル:次に唱える魔術を二回分発動させるか、効果を二倍に跳ね上げる事が出来る始源魔術。使用者:ナタリア・アーヴェクルス。至上級最高位魔術。詠唱説:<始源へと至りし我が模倣 我が双掌に 模倣より生まれし術を宿せ>】

【※次の次に唱える魔術が二回分、もしくは効果を二倍にして跳ね上げる事が出来る。次に唱える魔術が絶対に失敗し、自らに掛かっている強化魔術が全て消え去る。】


 お母様の声と、効果を目にして「模倣」した魔術。


 村で魔術を教わり、試しているうちに「重ねがけ」の存在に気付き、同じ魔術を何度も行使すると効果量が増えていった。

 結果、教わった強化魔術を幾重にも重ねがけして、一歩を踏み出したら、盛大に空へと大ジャンプをしてしいまい、自分が立っていた場所に大穴を穿いた。

 無意識の加減と相まってか、落下地点はお母様の直ぐ傍で、空から見た両者の周りの木々は燃えて、火の手が収まっていなかった。


 やがてお母様曰く、「鉄くず」が赤い光を発すると同時にお母様が倒れたのが見え、落下中にも関わらず「模倣」したばかりの魔術を試す。


「寸刻の 守りと加護の盾となれ!<オプロン>」


 ヒールの時にも感じた、ちょっとした脱力感を伴い、遥か下方にいるお母様の周囲に光の半球状の膜が生じ、光と熱の帯が直撃する。

 五秒しか持たない、という欠陥を伴ったソレは、「鉄くず」の光の帯を全て受け止め、溶けるようにして膜が消える。

 その膜が消えると同時に、お母様の前に着地して、最初に思ったことは光の加減のせいだと思っていたのに、髪の色から完全に銀が抜け落ちていた。

 あまりの変わりように手遅れだったかとも思ったが、かすかに上下する身体がまだ諦めちゃいけない事を物語っていた。


 だから、ただ前を見据え、「鉄くず」と向き合った。


 誰が何をしてこうなったのか、目に見えて明らかだったから、たった一言笑顔で「鉄くず」へと放った。


「腕の一本どころか、ネジ一本残すと思わないでくださいね?」



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