くるくる
くるくる。ぐらぐら。
視界が廻って、今にも崩れ落ちてしまいそう。
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如何してだっただろうか。何時からだっただろうか。
私の大事な、大好きな貴女。
彼女を「普通」ではない瞳で見つめる事に、罪悪感を感じるようになったのは。
あの人にとってはいつも通りの日常だったはず。
その日、ひとつだけ起きた「異常」。
それは、貴女と眼が合ってしまったこと。
それでも貴女は、「普通」じゃない私の視線に気付かない振りをしてくれた。
私に居場所をくれた。
・・・そんなあの人を、私は今この瞬間も、苦しめ続けている。
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彼女は部屋ですぅすぅと寝息を立てて眠る。
こんなに近くに私がいるのに、気付きもしない。
閉じられた瞳、長い睫毛を眺めながら、徐に手を伸ばす。
・・・が、その手が彼女に触れることは、なかった。
そう。それが、それこそが「普通」だったはずなのだ。
私とあの人の住む世界は違う。
なのに私たちは出会った。出会ってしまった。
それは私の、そして彼女の異常さゆえ。
如何して、如何して貴女は私に気付いてしまったのか。
そうでなければ、私も、貴女も、当たり前の日々を過ごせたはずなのに。
貴女の事を苦しめずに済んだのに。
涙が零れ落ちる。
それは彼女の頬を、そしてその下の床すらも濡らす事はない。
だって、私は。
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鳴り響く着信音に重い瞼を開ける。
相手は姉。
例の件が明後日に決まったから、部屋を片付けておくように
との事だった。
身体を起こそうとするも、眩暈がしてすぐ側の机に寄りかかる。
ここ二週間ほどで体調が急降下した。
原因はわかっている。
姉は何とかして治そうと試みているようだが、私は正直言ってどうでもよかった。
それに、と天井を見上げる。
涙を流す彼女と、瞳が合った。
左の涙黒子を通り、ぽろぽろと滴り落ちる涙は私の頬をすり抜け消えていく。
ごめんなさい、ごめんなさいと詫びる彼女に、私は口を開いた。
「如何して、泣くの?
私は貴女と出会えて幸せだった。貴女が私の透明な人生に色をくれた。
その貴女のために死ねるなら、それで貴女の、愛する貴女の隣にいけるなら、
私は何も後悔なんてないわ。」
それを聞いた彼女の瞳から、さらに大粒の涙が零れ落ちる。
そして彼女は、今までで一番綺麗な顔で、笑った。
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あぁ神様、充分です。
こんなにも幸せを与えていただいて、もうなんとお礼を言ったらよいかわかりません。
ゆっくり瞳を閉じる。
彼女が何か叫ぶ声が聞こえた気がした。
ねぇ、貴女。
私、貴女が隣にいてくれる未来を、何度も想像したわ。
でもね。
私は貴女がお姉さんと、友達と、これから出会う大切な人と、
笑っていてくれたほうが、ずっと嬉しいの。
だから、これでお別れ。
くるくる。ぐらぐら。
意識が何処かへ引っ張られる感覚がする。
彼女の声が、遠くなっていく。
あぁ、そういえばあの子の口から名前を聞くことも、
私の名前を教えることもないままだった。
同じことを思ったのか、彼女が涙声で叫ぶ。
「貴女の!貴女の名前はッ!!」
私は渾身の力で叫び返した。
「私の、名前は・・・!」
彼女が、ふっと笑ったのを感じた。
そしてそれを最後に、私の意識は途絶えた。
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くるくる。ぐらぐら。
痛い。苦しい。身体が千切れてしまいそうだ。
ふと、彼女の声が、聞こえた気がした。
「・・・おめでとうございます、元気な女の子ですよ!」
はぁはぁと肩で息をする。
抱いてあげてみてください、と渡された小さな身体をおずおずと抱きしめ、
その目尻を見た私は微笑んだ。
「産まれてきてくれてありがとう。貴女の名前は---」
読んだ後の解釈は、読者様にお任せします。
(といっても駄作なのでクッソわかり易いですが)
御付き合い頂きありがとうございました。