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第6話「日本で最も危険なゲーム 延長戦」

 四階の渡り廊下を通りB棟の文化部の部室が密集している部室棟に向かう。本当の名称は特別棟だが、文化部所属の生徒は部室棟と呼んでいる。

 そんなに遠い距離ではないのだが屋上から部室棟に行き着くまでに三人の体育教師とすれ違った。恐らく打ち上げ花火の件だろう。

 コミケ部の部室のドアを押し開けるとパイプ椅子に座り、長机に何か白い紙を広げている悠緋と優希の姿があった。

 二人とも集中しているようで青葉が入って来たことに気付いていないようだった。散らかっている部室を見渡し青葉は目当てのクーラーボックスを見つける。このクーラーボックスは部室に泊まり込む事になった日に青葉が持ってきた。

 クーラーボックスの取ってを持って持ち上げると肩掛けに左肩を通しそのまま部室を出て行く。

 部室から出たところでポケットの携帯を取り出す。携帯は手の中で震えている。よく電話がかかってくる日だ。

 画面を見ると非通知の文字が目に飛び込んでくる。

 通話ボタンを押し携帯電話を右耳に当てる。

「爆弾魔か?」

「ガンバってるようだね〜。人が折角手間隙かけて設置した爆弾をほとんど台無しにするなんてさぁ」

「不機嫌そうだな」

「そうだね。ボクはすっごく不機嫌だよ。あんな女の保険を使わなくちゃいけないんだからさ。まあいいや、これで君と『監視者』は舞台から退場する。残りの短い生の刻を楽しむんだね。じゃあね〜」

 問い返す暇もなく通話が切られた。

 青葉は携帯を見つめながらもう一度、自分が行った行動を考える。

 ボイラー室、各階の渡り廊下にあった爆弾はは撤去した。教室に爆弾がある可能性は低い。とすれば残る場所は何処だ?

 冷静になって考えろ。爆弾魔の口調や声色から推測すると負け惜しみなどではなく余裕が含まれた声だった。爆弾魔の言葉がブラフの可能性は低い。

 少なくても二人を同時に殺せる場所。自分と『監視者』と呼ばれている人間を同時に。

 当然だが青葉には『監視者』が誰なのかは分からない。

 分かっているのは『監視者』はこの学校の生徒もしくは教員ということだけでしかも確証は勿論ない。

 ふと立ち止まった青葉は廊下を見回す。

 もし自分と『監視者』が一緒にいなかったら死ぬのは片方……いや二人共死なない可能性もあるはずだ。

 そもそも爆弾を仕掛けられている場所にどうやって行かせる気だ?

 爆弾の近くに誘導しなくては殺すことなんて出来ないはずだ。

 そう考えると青葉には二つの可能性が見えた。

 一つは学校の何処で爆発しても校舎の全てを吹き飛ばすことが可能な威力を持つ爆弾。そしてもう一つは絶対に行く場所もしくは行かなければならない場所に仕掛けられている。

 後者で考えると浮かぶのは一年二組の教室。部室。屋上くらいだ。だが、爆破時刻の二時に自分が足を向ける可能性は限りなく低い。何処かにあるはずだ。確実に行かなければならない場所が。

 その時、青葉の真上にあるスピーカーにバツンとノイズが走り教頭の声が響いた。

「本日、二時より体育館で臨時集会を開きます。全校生徒は五分前には体育館に入場するように。繰り返し────」

 恐らく悠緋先輩の花火のことだろうな。青葉は考えを中断させられたことで苛立ちながら腕時計を見る。

 青葉は思わずはっとして顔を上げ、窓から体育館を眺める。

 爆弾の在り処が分かった瞬間だった。

 繰り返し臨時集会の内容を伝えている教頭の声を聞きながら青葉は走り出す。

 間違いない。爆弾の場所は体育館。爆弾魔はこの学校の生徒全員を殺すつもりだ。

 爆弾の在り処は分かった。しかし疑問も残る。今日の全校集会はあくまでも臨時集会だ。集会が開かれるのを事前に知って居なければ爆弾を仕掛けることなど出来るはずがない。

 まさか、爆弾魔の正体は――――。

 違う有り得ない。

 青葉は一瞬だけ過ぎった可能性を振り払う。

 今は余計なことを考えるな。爆弾を爆発させてはならない。

  分厚い屋上のドアを力任せに開け放ち、クーラーボックスを乱暴に投げ捨て、名月院が寝ているベンチに近寄り、名月院の両肩を強く揺する。

「おいっ! 名月院!」

 青葉には珍しく焦躁に駆られた声で大声を出した。

 間近で大声を出したにも名月院の閉じられた瞼が開く気配がないことに青葉は苛立ち始め、乱暴に揺すった拍子に名月院の後頭部をベンチに強く叩きつけてしまう。

 安眠ではなく永眠してしまいそうな鈍い音が聞こえた。

 相変わらずピクリとも動かない名月院を見ているうちに青葉は不安になり、右手を首筋に当てて脈を計ろうとゆっくり手を伸ばす。

 青葉の手が名月院の首に触れるよりも早く名月院が左手で青葉の腕を掴み引き寄せる。

 突然のことに踏ん張りきれず前のめりの大勢になる。

 頭の右側から後頭部の辺りに鋭い痛みを感じ、視点が回った。

 名月院が右足で青葉の頭を蹴り飛ばしたのだ。

 俯せに倒された青葉は掴まれた腕を後ろに回され、後頭部に何かごつごつした物を押し当てられる。

「……人の寝込みを襲って狼藉ろうぜきを働くつもりか。それなりの覚悟は出来ているんだろうな?」

 不思議と副音声でそれなりが人生を辞める覚悟と聞こえるのは絶対に幻聴ではないと断言できるほど名月院の声には敵意が含まれていた。

 推測すると後頭部に押し当てられているごつごつした物の正体は恐らく、銃。

 想像しなければ良かったと青葉は後悔する。銃を突き付けられた状況では青葉といえど冷静ではいられない。

「なっ! 待て落ち着け名月院、俺だっ!!」

「ユキ……か? 失望したよ。所詮、君も欲望の権化ということか。わたしを失望させた代償、その命で償うか?」

 本当に頭を撃ち抜かれるかもしれない。そんな錯覚に陥った青葉は咄嗟に大声で名月院を止めようとする。

「いつもいつもどうして名月院は寝起きだとそんなに機嫌が悪いんだ……!?」

 自然と滑り出た言葉に驚いたのは名月院ではなく青葉の方だった。

 少しの間。本当に少しの間だった。時間にすれば休み時間にトイレに行って戻って来るくらいの短い時間だ。そんな短い沈黙が青葉にはとてつもなく長く感じられた。

 やがて名月院が銃を降ろし青葉の左腕を自由にする。

 差し延べられた手を取って青葉は助け起こされた。

「すまない」

 静かな声だった。自分のしたことを後悔しているのか名月院は沈んだ表情をしていた。

 そんな顔をするならあんなことしなければいいだろう。青葉は寸前のところで言うのを止めた。

 名月院の落ち込んだ顔を見ていると胸が痛む。だから自分の言動で

 一瞬の不意を突いて表面に浮き上がりそうになった感情を必死に押さえ、平静を保ちながら青葉はゆっくり答える。

「そんなことはどうでもいい、ゲームはまだ終わってはいないようだ」

 爆弾魔からの電話と臨時集会の話をした後に体育館に爆弾が仕掛けられていると青葉は告げた。

「それは、本当か?」 腑に落ちない表情で探りを入れてくる名月院に青葉は怪訝そうな顔をする。

「俺が名月院に嘘を言う理由がない。それが答えだ」

「あぁ、そうだな。だとすると……まぁいい、現場を見に行くとしようか、ユキ」

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