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第4話「日本で最も危険なゲーム 中編」

先週より二日早い更新ですが。一週間に一話更新ですので。なんて屁理屈こねてますが、これからは土曜日のこの時間に更新します。

 生徒会室まで戻ると圭一の姿はなくなっていた。施錠もしないで貴重品があったらどうするつもりだろうか。

 誰の物が盗まれようと関係がないと言わんばかりに青葉は鼻で笑い生徒会室に入っていく。

 いつ頃からか青葉には鼻で笑う癖が出来てしまった。退屈な時自分には関係が無い時くだらないものを見た時など自然と笑ってしまうのだ。

 壁に刺さっている画鋲にボイラー室の鍵をかけると同時に生徒会のドアがガラリと開く。

「あっれ〜? お兄ちゃん何してるの?」

「雪夏か。別に何も」

 青葉雪夏あおばゆきかは青葉の双子の妹だが二卵性なので似てはいない。

 生徒会室に入って来た雪夏は悪戯な笑顔を作って青葉に近付く。

「ふ〜ん? 怪しいなぁ〜。いま何処かの鍵をいじくってなかったぁ? また悪巧み?」

 しっかり見ていたのか。青葉は呆れたようにため息をつく。

 いつもはぼや〜としている癖にたまに目敏いのだから、一体誰に似たのやら。

 少し考えて俺かも知れないと青葉は思い当たった。

「また悪戯でもしようとしてるんでしょ〜? お兄さんは何時まで経っても子供なんだから〜」

「雪夏には言われたくないな。それよりも生徒会に用があったんじゃないのか?」

 それを聞いた途端に雪夏の表情があっ忘れてたと物語っていた。

 昔から分かり易い奴だったのだが、成長しても変わらないとは大丈夫かと青葉は不安になる。

 どんなに鈍感な人間でも雪夏の考えを読むことは容易だ。そこに付け込まれて変な壷なんか購入させられなければいいのだが。

「いっけないっ! 井上先輩に用があったんだけど、見てない?」

「圭一さんか。さっきは居たんだけどな……何の用があるんだ?」

「あぅ……えっとその……」

 あからさまに困った顔をしていた。

 聞かれてまずいことなら個人的な用でもあったのだろう。

 雪夏が圭一に個人的な用事。まさか圭一さんが純粋な雪夏を……ってある訳無いか。

「どうした?」

「あ、いや。あっ! クラス展示がまだ終わってないから行かなくちゃ」

 青葉は逃げるように走りだそうとしている雪夏の右腕を掴む。

「逃げるのか? 逃げると今度から三時のおやつは作らない。今週は雪夏の大好きな特製ティラミスでも作ろうかと思っていたんだが……」

「ティラミス!? わぁいティラミス大好き」

 掴んでいた右腕から手を離し鼻で笑う。

 それを聞いた雪夏はビクッと身体を震わせる。

「雪夏。圭一さんに何の用があったんだ? 正直に答えないと今後一切ティラミスはおろかおやつは作らない」

「あぅ……やっぱりお兄ちゃんが鼻で笑った後は酷いよ〜」

「正直に話せばいいだけだ」

「分かるよ……でも、でもぉ〜。ティラミス〜」

 今にも泣きそうな声色で瞳には涙を溜めていた。これではまるでいじめっ子ではないか。

 仕方がない。

「分かった。言いたくななら言わなくていい」

「ティラミス……」

 泣き声と恨めしげな声が入り混じっている。

「作ってやるから。泣くな」

「わぁい。お兄ちゃん大好きっ!!」

 抱き着く雪夏を半ば無理矢理、引き離す。

「お、おい。抱き着くな。もう高校生なんだからもう少ししっかりしないと大人になってから困るぞ」

「いいもん。お兄ちゃんが居てくれるから」

「やれやれ。苦労させられそうだな」

 えへへと笑う雪夏の顔を見るのが青葉にとって何よりも好きな事だった。雪夏が作る総ての笑顔が好きだった。

 心が冷め切っている自分とは違うからか。青葉には時折、雪夏の姿が眩しく映る時がある。青葉がただ唯一望むことがあるとすれば雪夏が何時も笑顔を絶やさないことだろう。

「相変わらず、君達兄妹は仲が良いな。思わず嫉妬してしまいそうだよ」

 ボイラー室の時とまったく同じだった。

 背後から名月院の声が聞こえ青葉は今度はゆっくりと振り返った。

「な、名月院さん!?」

 青葉から慌てて離れると雪夏は驚きの声を上げるが青葉は大して驚いてはいない。

「まさかのシスコンだったとは詐欺だ。慰謝料を請求したいくらいだよ」

「……お兄ちゃんを悪く言わないで」

 人を小ばかにするように青葉を嘲笑する名月院に青葉ではなく雪夏が反論する。

「失礼。気を悪くしたのなら謝ろう。すまなかった」

 素直に謝罪をした名月院に雪夏は繋げる言葉をなくし、微妙な間が生まれた。

「雪夏はもう戻れ。俺は名月院さんにこの学校を案内して来るから」

 この機を逃すと口を挟むタイミングをまたしばらく待たねばならないと感じ取った青葉は雪夏の頭を撫でながら言う。

「うん。悠緋ちゃんに頼まれた事もあるし……あっ……」

 慌てて口元に手を当てても時既に遅しだ。

 青葉の思考は既に悠緋が雪夏に青葉に気付かれないように圭一を捜すようにと頼まれたのだろうと当たりを付けていた。

「さ、さ〜て。私はもう行こうかな〜」

 間延びした言葉とは裏腹に雪夏は俊敏な動きで生徒会室から飛び出していく。

 青葉は右手で額を押さえながら頭痛の種が増えたなと思う。また何か悪巧みを企んでいるらしい。あの先輩は。

「少し妹に対して過保護なんじゃないのか? 妹と言っても双子だから同じ年だろう」

 視線を生徒会室のドアから名月院に移す。

「別に名月院が心配することじゃない。それよりさっきと随分口調が違うな。猫でも被ってたのか?」

「あぁ。これがわたしの素だ。正直、他人を演じるのは疲れが溜まる」

 言いながら名月院は左肩に掛けているケースをしっかりと掛け直す。

「なんだ?」

 青葉の視線に気付いた名月院は不思議がる。

「そのケースは?」

「秘密だ」

 そう言って笑った名月院はとても神秘的に見えた。

「良い笑顔じゃないか。黙ってればアイドルになれる」

「黙っていれば可愛いのに……か? ふん。喋っていてもわたしの美貌を持ってすれば超アイドルになれるさ」

 自信たっぷりに言い放つ名月院に青葉は先程感じた神秘的というのは疲れが溜まっているせいだと解釈した。

「何をしている? さっさと行くぞ」

 既に生徒会室のドアにその細く白い手を掛けていた名月院は青葉を振り返りながら言う。

「一緒に行動するのか。さっき渡された携帯の番号は何だったんだか」

「あぁ。予想よりも早くに馬鹿が捕まってな」

 馬鹿と言われると自然と圭一の顔が青葉の脳裏に浮かぶ。

 青葉はそれを振り払うように腕時計に視線を落とす。

 十時五分前。タイムリミットまではまだまだ猶予があった。

「爆弾の場所に心当たりはあるのか?」

 名月院の質問に青葉は冷笑を浮かべると鼻で笑った。

「ふん。当たり前だ」

「ふふっあの頃のようで面白くなって来たよ。ユキ」

「……まるで以前に俺と会った事があるような口振りだな?」

 自分で言ってから青葉はさっき雪夏と一緒に居た時に名月院は「相変わらず」という言葉を使ったことに気が付く。まだ会って間もない名月院がこの言い回しをするのは少し変じゃないか。

「ずっと前だが君によく似た少年と一緒に馬鹿をしていた日々があってな。冷たい奴かと思いきや実は誰よりも優しい人だったよ。偶然にも夏雪という名前でな。ユキと呼んでいた。君はユキと呼ばれるのは嫌いか?」

 微笑みながら問いかける名月院から思わず視線を逸らし、何かに苛立っているのか乱暴に青葉は答える。

「ふん……勝手にしろ。行くぞ名月院」

 名月院の横を通り生徒会室から出ていく青葉に続いて名月院も廊下に出て背を向けながらドアを閉める。

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