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第10話「柔らかな日差しの中で 2」

 優依は言いながら手提げ鞄から青い弁当箱を取り出す。

 蓋を開けると中にはコロッケとメンチカツが綺麗に並べられている。

「わたしはこれ。コロッケとメンチカツ。おかず担当二号の優希は?」

「もちろん。準備できてるよ。あと先輩が今日は用事あるから来れないって。だから僕が先輩の分まで作ってきたよ」

 目をやると黒い弁当箱に魚の焼き物を透明なタッパーに野菜を詰め込まれていた。

 優依達の昼食は日替わりで弁当を作って来る人と内容が変わる。

 白いご飯に対しておかずは作る手間が掛かるのでおかず係りは二人でやることにしていた。

「それで、どうして雪夏はあんなに落ち込んでいるんだい?」

 シートの端っこで負のオーラ。通称ブラックホールを形成している雪夏を見ながら優希は誰に言うともなしに尋ねた。

「パンが売り切れだったみたいね。ってか雪夏っ! あたし達が作って来たご飯よりもパンが良いって言うのかしら?」

 満面の笑顔だが声は笑っていない。優希と青葉の表情が変わったところを見ると二人には副音声で何か別な言葉が聞こえたに違いないが名月院はぽやんとしたままだ。

 その反応はある意味で普通だ。名月院は優依をあまり知らないのだ。

「作って来てくれた人に感謝出来ない人はお昼を食べる資格無し!」

「ひぃ〜。それだけは御勘弁を〜」

 何処の時代劇だと思われるかもしれないが優依達にとってはこれがありふれた日常なのだ。

「ほら雪夏。受け取れ」

 青葉の声と同時に袋に入ったコロネパンが優依のすぐ横を飛んでいく。

「わっわっ」

 雪夏はなんとか落とさずにパンを受け取る。

 振り返り青葉を見つめると、相変わらず涼しい顔をしていた。この青葉が妹の為にわざわざ二時間目の休み時間に購買までパンを買いに行っているのかが分からない。そんなに雪夏が大事なのか。そんなにも。

「……さぁて! 今日は青葉が白いご飯の当番だったわよね? まさか忘れてないでしょうね?」

 優衣は心の底から湧いて出た嫉妬にも似た感情。いや違う。嫉妬をしていたのだ優依はそれを堪えながら何時もどおり明るく言う。

「忙しくて時間が取れなくてな。ピンチヒッターを立てさせてもらった」

 自然な感じで青葉が名月院に目配せをしそれに引っかかりを感じながらも優衣も名月院を見る。

「お、大きいわね……」

 思わず声を出してしまったが、仕方ないだろう。名月院の前には三段に積まれた黒い重箱が置かれており、一体何処にしまっていたんだろうと突っ込みたくなる。

 その重箱の塔はさながら五重塔ごじゅうのとうだろう。いや三段だから三重塔さんじゅうのとうか。

 中身は一段目におにぎり。二段目にサンドイッチ。三段目にはデザートがびっしりと詰め込まれていて、どれもすごく美味しそうなのだが。

「少し多いかもね」

 苦笑いをしながら優希が言った。

「多かった……ですか? 誠之君から多めに作ってくれと言われまして。とにかく馬鹿みたいに食べる女がいるからと」

 名月院はしゅんとしながらとんでもない発言をする。

「まぁ。ゆーちゃんなら食べ……もごっ」

 優希が素早く雪夏の口を塞ぎ、小声でフォローになっていないと言っているが今の優衣にはどうでも良いことだ。

「……誰が……誰が馬鹿みたいに食べるですって!? ユキっ!!」

 青葉が居たはずの場所を振り返るとそこは既に無人だった。

「ってあれぇ!?」

「もういないね……」

 何時だって逃げ足は速いものだ。

 軽く舌打ちをした後に優衣は軽く咳払いをして笑顔を繕う。

「食べようか」

 優希の言葉に優依達は頷く。 食べる前から分かっていたことなのだが、おかずに反比例して主食の量が多いのは必然的だ。しかしながら優依達の間にはある約定があった。

 お昼のご飯は残さず食べるべし。

 最初は学校の事やテレビ番組の事を話しながら食べていたが、次第に会話が少なくなり仕舞いには黙々と食べ続けることになった。

 そんな努力の結果。昼休みが終わる頃には膨大な量のご飯は全て残らず姿を消していた。

「ご、ごめんなさい……やっぱり多かったですよね……」

 後片付けをしてる最中に謝った名月院の頭に優依は軽くチョップを入れる。

「あのね。瑞希が謝ることじゃないでしょ? 悪いのはぜ〜んぶユキなんだからさ」

 そう言ったあとに優依は付け足した。

「瑞希って呼び捨てで呼んでいいよね?」

「あ〜! ゆーちゃんばかりずるい〜」

「なによ。雪夏もそう呼べばいいじゃない」

「そうする〜。ね。瑞希ちゃんだから……みーちゃんでいいよね?」

 無邪気に名月院にじゃれつく雪夏。そんな二人を見ているとさながら姉と妹という表現がピッタリだった。

 優依にも姉がいるから何となくだが分かる気がした。自分にもあんな風に姉にじゃれつく時期があったから。

 まぁ、雪夏の場合は同じ年だから問題と言えば問題のような気がしないでもない。

 さすが兄(青葉)に甘やかされて成長しただけあり他人に甘える術を知っている。ゆとり教育恐るべし。あ、ゆとり関係ないか。と優依の思考は結論に至った。

「えっと……その……」

 助けを求めるように名月院は優希に視線を送った。優依はほっといた方が面白いと思った為、しばらく傍観すると決めている。

 助けを求められた優希は困ったように笑った。

という訳で約一ヶ月ぶりの更新でした。え〜、少し季節外れの五月病と色々と格闘をしていました訳で。はい。言い訳ですねすみません。

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