ある意味王道ですが何か?
(アルファポリス様にも掲載してます)
王道学園、というものをご存じだろうか?
所謂、オレ様生徒会長から始まる、テンプレ生徒会のいる学園のことである。別名金持ち学校とも、言う。
そんなどこかの国のどこかにある学園に、このたびこれまた王道的な転校生がやってきた。
もじゃもじゃの髪に瓶底メガネという出で立ちの少年である。もちろんそれは変装であり、素顔は可愛い美少年というのがお約束。
そんな転校生は、これまた王道的にオレ様生徒会長をはじめとする生徒会役員、風紀委員、不良っぽい一匹狼といった面々をことごとく虜にしていった。
ちなみに男子校なので、あっれ王道ってそっちの王道? と思う人もいるかもしれないが、そっちの王道である。
で、そんな王道なのでこれまたやっぱり王道的に、うっかり気に入られちゃった引き立て役の少年、というものが存在したりする。
金持ち学校内に唯一存在する、庶民クラスの少年である。
整っているわけではないが酷くもない、平々凡々を絵にかいたような容姿であり、何事もなければ平穏に学園生活を送っていただろう。
だろう、というだけありもれなく転校生の取り巻き及び取り巻きたちの親衛隊たちに目の敵にされていたりする。
庶民の分際で――、などなど。
だがしかし、金持ち学校に通える庶民というだけあって、この状況に涙を呑んで甘んじている、などということはあるはずがなかった。特にこの学校では。
今日も今日とて彼らはやってきた。
「お昼行こうぜ! な!」
チャイムが鳴ったと同時に教室に入ってきた転校生たちに、お前ら授業はどうしたと誰もが思ったが、何も言わない。だって、言っても通じないのはこの一週間で実証されているし、それ以上言うほどの義理もない。
そんな中。
「いや、でも」
声をかけられた“うっかり気に入られちゃった引き立て役の少年”である彼は、思わず、といったように言葉を濁す。
すると、転校生は途端に眦をつりあげ、その後ろの取り巻きたちは「せっかくの誘いを断るのか?」と言わんばかりに睨みつけてくる。
断っても断らなくても気に入らないくせに。
まったくもってめんどくさい。
「なんだよ! おれと昼飯食うのが嫌なのか!?」
もちろん嫌に決まってるじゃないか、というのが本音だが、それはきれいに呑み込んでうつむく。
「……お金が、ないんだ」
ぽつりと、言う。
「え?」
「俺、庶民だし。食費が高くて通えないんだ」
金持ち学校の食堂はバカ高い。はっきり言って庶民に喧嘩を売っているとしか思えないくらいに、とにかく高い。
食堂に一流のシェフがいて、キャビアやらフォアグラやらがでてくるのを知った時には驚きを通り越して、呆れたものである。
食堂のおばちゃんが恋しい――。
庶民料理の貴重さを切実に思い知った瞬間でもある。
たしかに金銭面でいえば、庶民枠での入学とはいえこんな学校に通えるほどなので、行こうと思えば行けるのだが、このクラスで食堂を利用するものは皆無である。
なぜならば、誰もが常識的な金銭感覚と貯蓄を心掛けているし、先を見ることができるので。
よって、“自分の金”じゃ絶対に行かない。
「俺だってっ」
がばりと上げた視線を一瞬だけ合わせて、すぐに辛そうにそらす。
「……一緒に食べたいよ。でも、でもっ」
「そんなのおれがおごってやるよ!」
「えっ」
「だって親友だろ!」
挨拶をすれば友達、うっかり名前で読んだら親友、が座右の銘であるらしい“親友”が力強く言い放つ。
もちろん、その後ろから放たれる射殺さんばかりの視線には気づかない振りが当たり前。
「いい、のか?」
「当たり前だろ!」
「っ、ありがとう親友!」
「おう!」
なんて素晴らしい友情だろうか。
内面さえ知らなければ。
やったね昼食ゲット♪ と内心でスキップしている、そんな彼の所属するクラスの面々はそれを実によく理解しており、「それが当たり前だよね~」的な視線を送っている。
だって彼らは庶民クラス。
優秀で、逞しい逞しい庶民クラス。
だから彼らが金持ちのお坊ちゃんたちに向ける感情はただ一つ。
いかに利用して利を得るか。
よって、“引き立て役の少年”が金持ちの“親友”から昼食を奢ってもらうのは当然の流れである。
くれるっていうんだからいいじゃないか♪、が合言葉だ。
もちろん“親友”の取り巻きたちからの悪感情など、彼には、いや庶民クラスには何の影響も及ぼさない。
だって庶民は逞しいんだもの。
だから、利用できるものは利用するのが、
――――当然でしょう?