転生!
役座が真実を迎えにロビーへ行くと、顔馴染みの受付嬢から、どうやら彼女は地下室へ行ったようだと言われた。
地下室へ直接向かわなければできない仕事は全くなかったので、ひどく驚いた。
ただ単に遠隔操作で、施設の仕掛けを動かし、鍵を閉めてしまえば、それで済むことなのだ。
数時間前にケータイを失くしていた役座には、真実に連絡を取る手段が対面しかなかった。
それで急いで地下室への薄暗い階段の前に来た。
階下の扉は開け放たれている。
「行ってみるしかないな…」
恐る恐る階段を降りて、ひょっこり中を覗き込むと、地下室では、三人の男がテーブルに顔を伏せていて、その向こうに、後ろ姿の真実がいた。
「おい、いったい何やってるんだよ、真実?」
小声で問いかけても、返事がない。
三人の横を通って、ゆっくりと真実に近づくと、彼女はいきなり向き直る。
「パーーーン!!!」
と、全力ビンタの痛快な音とともに役座はその場に倒れ込み、家洲を残して、真実と背黒と俺氏はいっせいに地下室を駆け抜けて行ってしまった。
真実は目に涙を浮かべ、背黒は役座を一瞥して薄笑いし、俺氏は家洲を苦々しい思いで見送った。
すると予定されていたように、地下室の鍵の閉まる音がした。
*
実は彼女が地下室へ入ったとき、彼らに麻酔銃を放ったのではなく、この物語に関わって彼女が知る限りのすべての真実を彼らに伝えていた。
そこで家洲が彼女の意志を尋ねると、彼女は役座と別れ、彼と自分が更正することを望んだので、以上のような計画を家洲が提案した。
真実は家洲にも逃げるよう促したのだが、組から与えられた任務を尽くしくじったとなると、役座の身に危険が及ぶ可能性が高いので、家洲は役座と地下室に残り、組のものが来るまで監禁されたままで対話の機会をもつことを選んだのだった。
その後のことは神のみぞ知る、である。
地下室を抜け出した三人の続きについても書いておこう。
ネットカフェから飛び出した三人は、タクシーを捕まえて、ある程度の距離を逃げると、喫茶店でその後のことを話し合う機会をもった。
警察に通報はしたものの、組から家洲が逃れられる保証はどこにもなかった。
真実もすぐさま自首した方が良かったのだが、一晩だけ気持ちの整理をつけたいとのことで、その間の警護を背黒が買って出た。
二人は夜の闇の中に消えて行った。
下手するときわめて危険な事態に巻き込まれかねないのを真剣に恐れて、俺氏は二人を見送って、独りで自宅へと帰っていった。
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いかがでしたでしょうか?
この物語の世界では、ネットでマシーンの噂はあったし、その研究をしていた博士もいたのですが、そのマシーンの完成と、それがとあるネットカフェで体験できるというのは役座君の嘘なのでした。
それではその転生シミュレーションマシーンというものが、この話の中でまったくの出鱈目だったのでしょうか?
あえて言えばここに書かれた文字と物語そのものが転生シミュレーションマシーンであったと言えるでしょう。
ここではもちろん架空の人物ではありますが、様々の個人が発する言葉の独白を読み、ある程度共感しながら、諸個人の語りを横断することは、さながら転生のようです。
五人の主要キャラのなかで、あなたが今どのキャラに近く、もしも転生するならどれがいいでしょうか?
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