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転生の目的(文責:俺)

ーなんだかふわふわと夢見心地だー


家洲の話を聞いていて、分かったように思えるところもあれば、正直に言ってさっぱり意味の分からないところもあった。

でも誠実そうな物腰の彼を見ていると、その思想にも総じて共感できそうな気がしてくる。


ただひとつ疑問をぶつけてみた。


「そのーですね…あくまで仮想世界で望み通りの姿に形を変え、望み通りの物語を楽しめるのが、その転生シミュレーションマシーンなんじゃないんですか…?家洲さんのお話ではですね、マシーンによって、誰もが望み通りの心を手に入れれば、みんなが世界平和を望むようになるとのことでしたが、でも転生と心は別じゃないんですかね?マシーンには、仮想世界で身体を変えられても、また生きる環境を変えられても、現実世界で心を変えることはできないんじゃないですか?」


そう言ってすぐに俺は自分が今質問してみたばかりのことを、ゆっくりと再び反芻していた。


「それには残念ながら私にも、自らシミュレーションを重ねるまでまだ断言はできないのです。実際に私が様々な姿に形を変えてみて、彼らが生まれ育つ環境を何度も体験してみたとき、分かってくることがあるんじゃないでしょうか?そうですね…例えば…」


「ええ、ちょっと待ってください、家洲さん…!何か分かるような気がします。まず僕が望み通りの体と環境を手に入れたとしたら、そのとき最高にハッピーだろうなーと思うんですね。例えばイケメン秀才になり、美女に囲まれて、地位も金も手にするということですから。そうしたら、まず心に余裕ができます。余裕ができたら、暇潰しに世界平和を唱え始めるかも知れません。」


「ははは、あーそうも考えられるかも知れませんねぇ。実に…」


「あっ、でも待ってください!それじゃあ、仮想世界ではハッピーになれても、現実世界の惨めな自分に戻ってきたときにハッピーだとは限りませんよね?そんなの薬物で得る陶酔と同じじゃないですか?そんな世界平和は平和中毒と言うべきですよ。」


「ええ、私も問題は実にそこだと思います。」


家洲は賛意を示すような優しく力強い声で、目を見開いて応えた。


「生まれが恵まれていても不幸な人は世にいくらでもいるもんです。反対に生まれが貧しくても幸福な人もいる。体や環境やストーリーがどのようなものであれ、心の幸福と必ずしも直結しないのです。それなのにどれだけ多くの人が、体や環境やストーリーの豊かさを心の豊かさと勘違いし、競い合い、奪い合い、殺し合っていることか知れやしません…」


「うーん…まだ釈然としないけど…あ、そうか、現実世界に生きている僕たちも、結局良い体や良い環境という仮想的なものを求めて、要するに現実のなかで転生してやろうとして、現実の争いを繰り広げてるに過ぎないのかもしれませんね。それじゃ反対に、仮想世界を体験するメリットは何だろう…?」


「月並みですが、色々な仮想世界を実際に体験してみることによって、現実と仮想の区別を知ることができるはずです。仮想を現実にしようとしたときに、現実の争いが起きたのでしたから。身体はどう転生したって、心は正しくいられることを教える意味では、デカルトの心身二元論は正論だと思いますね。」


ここでいままでずっと黙りこくっていた背黒がにやにやしながら結論めかして言った。


「いやー、家洲さん、俺君。とても面白い話を聞かせてもらいました。そもそも現実だのなんのと、いかにも堅苦しく言ってみたって、実はすべてが夢のようなもので、天国という夢から現実という夢へ転生して来たのが僕たちかもしれませんもんねぇ。それで現実で三次元の夢にまどろむ僕たちが二次元の夢にまどろんだところで、いったいどこに特別に悪いところがあるんでしょうねぇ。」

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