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三人の被験者(文責:俺)

約束していた先輩は定時を過ぎてもメールさえ寄越さなかった。


こちらからのメールにも結局一日中応答はなかった。

背黒が言うには、いつもはそういう先輩ではない、とのことだった。

やむをえず俺たちだけでネットカフェ『ラビリンス』に足を踏み入れた。



ガラスの自動ドアから覗かれた通り、室内は何の変哲もない普通のネカフェだった。

しかし中へ入るやいなや、黒ぶち眼鏡を掛けた、バイトと思しき小柄な女の子がめざとく俺たちを見つけて、こちらへ近づいて来た。

いらっしゃいませ、とも言われなかった。

ただ「ちょっと奥へよろしいでしょうか?」と小声で言われて、俺たちは彼女に突然腕をひったくられると、入り口から近くのロビーの中へ誘導された。

他の客に見られても一向に構わないといった様子で、赤半袖に、白く華奢な腕をした女の子が、重いものを引きずるみたいに、後ろ向きで歩く。

無言で俺たちの腕をぐいぐい引っ張る。


その間5秒。


それからスタッフの小さな控え室を横断して、奥にある別のドアノブに手を掛けるまでにも、約5秒。

彼女は扉の前に来て、やっと手を離してくれた。

そして無礼を詫び、扉の奥へと二人だけで進むよう促すと、にっこりと微笑む。


もう何がなんだか分からない。

彼女のエプロンの裏側に慎ましく控えて、動きのあるたびに、陰影でその存在を主張する丸みを帯びた膨らみだけを俺はただただ見つめていた。



その扉を開けると、一面の闇が広がった。

地下に向けて、急斜面で真っ暗な階段が続き、周囲の空気がみんなそちらへ吸い込まれているのを、肌を舐める微風が伝えた。

その階下がどうやら一つの部屋に連結されているらしいことは、そちらの扉の隙間から幽かに漏れ出る光に目を凝らしてなんとか分かった。

湿っぽいにおいを嗅ぎながらひやりと冷たい階段を、ゆっくりと足下を確認しながら降りて行く。

手で触れるのも、足で踏みしめるのも、堅いコンクリートの感触だ。

俺たち二人の発するあらゆる音がくぐもって共鳴して、何だかくらくらしてきた。

それは遠くから聞こえてくる誰かの飢えた叫びみたいだった。

長い階段をやっとのことで降りると、そこの扉にノックしてみた。


返事はない。


しかし中へ入ると、すぐさま一人の先客と目が合った。

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