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泰子が落ち着きを取り戻し、男達の話を受け入れることができたのは、翌日の事だった。
すべてを受け入れた泰子は、ある種の悟りを開いたような雰囲気を放ち、男達に尋ねた。
「私は、死んでも尚、懺悔を続ける幽霊なのですね?」
「それは違います」
青年が即座にそれを否定する。
「言うなれば、ここは次に生まれ変わるまでの中間地点、人間の言う、天国か地獄のようなところです」
天国、という単語に、泰子はびくりと反応を見せる。
そういえば、天国がどうこうと言って、単身アメリカまで行った事があったっけ。あの時は悪いことをしたな、と今更ながら罪悪感が湧きあがる。
「その人が抱えた後悔を清算するのに必要な時間を、ここで過ごしてもらうんです。だから、過去にいろんなことを抱えていた人はその期間が長い。それだけなんですよ」
青年はいつもと変わらず爽やかに笑っているが、その言葉までもが泰子を苛む。
――私は、後悔の多い人生だから、他に類を見ないくらい長い間ここにいるんだ……。
「あ、ちょっと長いくらいで気に病まないで下さいね。僕が知ってる中で一番長くいる人は……五、六十年くらいここにいますから。今もいるんですよ、その人」
誰とは言えませんけどね、と茶目っ気たっぷりに笑って見せる。
「でも……どうして拓はここに?」
「先輩はね、素質があるって見初められたらしいですよ」
後輩の言葉に、男は少し困ったように笑う。
「俺の素質ってのは『鬼のような無慈悲さ』だそうだ。……まあ、一人一人に情けをかけてちゃ、清算できるもんもできなくなるからな」
「先輩の目はめちゃくちゃ確かなんですよ。過不足なく、刑期丁度で過去の清算が終わっちゃうんですから、ホント尊敬します」
自分の事のように誇らしげに言う青年の頭をぽんと撫でると、男はそんな俺でも家族には甘いらしい、と苦笑しながらぼやいた。
「母さんの刑期はまだ一年近く残ってるが、過去の清算は済んだみたいだ」
寂しげな言葉に、泰子は不思議そうな顔をする。見れば、自分を見つめる青年の目が驚きで見開かれている。
「泰子さん、手!」
青年に言われて手を見ると、指先が透き通り始めている。そしてそれは次第に広がり、全身が光に包まれるような感覚に陥った。
ぼやける視界に、歯を食い縛って涙をこらえる息子の姿が映った。
「拓、今度は無理し過ぎないで、身体を大事にね。それと……――」
いい終える前に、泰子は光となって姿を消してしまった。
瞳から零れる涙を拭う男を気遣うように、青年は一足先に部屋を出た。
「先輩、今日も新しい方がいらっしゃるので、判決の方お願いします」
今日も後輩の元気な声が響く。
男は、母が書き残したノートにしおりを挟むと、ノートを調査書に持ち替えて部屋を出た。
――終――




