聖夜のプレゼント
あなたはサンタがいると信じていますか?
信じてる人もいれば、信じて無い人もいる。もちろん、どっちだろうとはっきりしない人もいるだろうし、うち、仏教だから…って人もいるだろう。
まぁ、ぶっちゃけどーでもいいって人が多い、と私は思う。
私は…いないと思っていた。いや、今でも居ないと思っているが。
今日はクリスマス。子供は凄く楽しみにしていたプレゼントを貰えて、レストランで豪華な物にアホみたいに食べ、疲れてスヤスヤ寝て…とても幸せな日だろう。
大人達はイエス様に感謝しつつ、愛を語る…言ってて恥ずかしくなったのは内緒だ。
とにかく、今日は皆が幸せな日のはずだ。
え?独身の方?あぁ、み、皆の笑顔が見れて幸せ…妬ましいか。
まぁ、こんな幸せの象徴みたいな日が、私の人生を狂わせるきっかけの日になったのだ。
目覚ましが、朝に相応しい音を奏でる。この音を聞くと、私は夢から引きずり出され、現実へと強制送還される。
目覚ましを止めようと手を伸ばすと、ふと違和感を感じた。
これは…何?
綺麗に包装された小さな箱が、ひとつ。サンタさんが持ってきてくれそうな、そうまさしくプレゼントだ。
もっと幼い頃の私なら、『わーい!サンタさんからのプレゼントだ~♪』なんて大はしゃぎだろうが、もうそんな歳じゃない。もう15歳だ。
背中からすーっと血の気が引き、寒気がする。
誰が?親?いや、プレゼントなんて小学校低学年の時以来だ。
妹?まさか。あいつは私に無関心だ。
じゃあ、本当にサンタが?はっ、冗談はよしこちゃん。そんな訳あるか。
じゃあ、誰?心あたりはない。本当に、誰がいったい何のために…
目覚ましが自動的に切れると同時に、冷静さを取り戻す。
考えたってしかたない。
私はそう思うと、とりあえず顔を洗いに洗面所へ向かった。
「お兄ちゃんおっはよー♪」
「誰だお前?」
おっと、思った事が口に出てしまった。だって、こんな可愛い挨拶する人が身内にいる訳ないんですもの。
「誰って、うちの事忘れたの?毎日あってるのに。」
「…何だ?何が望みだ?」
1年ぶりに妹と話したが、こいつ軽すぎだろう。いや、軽さはどうでもいいんだ。こいつがいきなり話かけてきてびびってるんだ。思考がパニックしてる。
「何が望みって、えーっと、あの箱を開けてないの?」
「あれ、お前からだったのか?開けてないぞ。あんな謎の物体開ける訳がない。」
「んー小心者ねー。つまんなーい。」
私達の会話は、母のご飯よ~という声で遮られた。
「早く開けてよねー。」
にやにやすんな。昨日までの仏頂面はどこいったんだ気色悪い。
あー、開けたくねーな、明らかにパンドラの箱ってやつだろ。
妹があんなに豹変するんだ。余程すごい物なんだろう。
いや、待てよ。もしかしたら妹が実はブラコンで、『お兄ちゃん大好き。』的な…いや、無いな。あり得ない。万が一もない。
そんな事を考えて、朝食の席につき、飯を食う。
「今日は、何か予定はあるのか?」
父が私達二人に尋ねる。ああ、言い忘れてたが、家族構成は父、母、私、妹の四人だ。
「特には。」
「ノープラン。」
妹もないのか。驚きだ。彼氏が三人はいそうなのに。
「ふーん。お前ら恋人といちゃこらとかないんだなー。」
この親父…
「しかし、クリスマスなのに全員暇とは…」
「まさか、どこかに連れて行ってくれるのかしら?」
母が目を輝かせてる。行きたいんだな。
「いや、別に…」
この夫婦大丈夫なのだろうか。
さて、部屋に戻ってきたぞ。あの箱は…あるな。
…………。
しばらく箱を観察する。なんの変哲もない。妹が、開けたの?って聞いたという事はおそらく体に直ちに影響は無いはずだ。少なくとも爆発とかはしないな。
えぇい!ごちゃごちゃうるさい!開けるぞ!
リボンを解き、バリバリと包装紙を破る。すると、白い箱が出てきた。
うわ、開けたくない。でも、開けてやる。
箱を開けると、そこには。
紙が一枚。
『おめでとうございます。あなたの能力は【検索】です。』
……………。
詰まるところ、妹は厨2だった訳か。だから家族ともろくに話さないで…ああ、もう可哀想。
妹は思春期なんだ。暖かい目で見守ろう。そんな事を考えていたら、部屋にノックの音が飛び込んできた。
「お邪魔するよ!」
妹だ。可哀想な妹だ。
「可哀想な子を見る目で見ないでよっ!」
そんな目をしてたか。暖かい目を心がけていたのに。
「とりあえず、お兄ちゃんも開けた?」
も、って他の誰かにあげたの?
「何これ?」
妹に聞いてみた。
「うちもわかんない。」
「おいおい、お前のプレゼントだろ?それともなんだ、そういう演技か?」
「はぁ!?」
声が裏返ってる。なんか素で驚いてるようにも見える。
妹には演劇部を勧めたい。
「うちがこんなことする訳無いじゃん!!」
「じゃあ何でお前私のとこにこの箱があるって分かったんだ?」
「朝一回来たからだよ!その時お兄ちゃんのとこにもあったのを見たの!お兄ちゃんその時『開けてみればいいじゃん』って言ったの覚えてないの!?」
こいつ妄想癖でもあるのか?それとも私が覚えてないのか?
「お兄ちゃんその時『開けてみればいいじゃん』って言ったの覚えてないの!?」
やべぇ、覚えてねぇ…
「もう!なんなのよー!」
こっちが言いたい。
「とりあえず、お前のプレゼントじゃないのは分かった。じゃあ、いったい…」
うーん、考えても無駄かな。
あー、妹がいじけてる。話題少し変えるか。
「お前の箱の中には何入ってたんだ?」
「んー、これ」
妹がポケットから紙を取り出して、ほいっと私に渡した。
なになに…。
『この紙に当選した者のみ読むことが可能です。』
……………。
「なぁ、そこの箱の中の紙切れ読んでみてくれ」
「んーこれお兄ちゃんの?『この紙に当選した者のみ読むことが可能です。』…はぁ?」
「やっぱりか…」
摩訶不思議。奇天烈。信じられない。
でも、事実らしい。だんだん嫌な予感、不安になってきた。
「お前、この紙読んで。」
妹に、持ってる紙を渡す。
「えっと、『おめでとうございます。あなたの能力は【毒】です。」