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4話


「不気味だ……!」


 聞こえた声にラウルが見ていた書類から顔を上げれば、渋い顔をしたまま机を見つめるルシアンの姿を見つけた。


「何が不気味なんです?」

「セフィリアだ。あれから何も言ってこない。……不気味だ」


 ある日突然、側室を持てと言ったセフィリア。これに対してルシアンは当然の如く反対した。それは激しく反対してやった。話も聞かないという徹底ぶりだ。それ以来、セフィリアは側室のことには触れない。

 そしてそれが、不気味で仕方がなかった。


「言わなくなったのなら良かったじゃないですか」


 ラウルの言うことはもっともである。だが、ルシアンは素直に頷けなかった。

 幼いころから一緒に居るからこそ、セフィリアが何も言って来ないことが怖い。とてつもなく怖かった。


「あいつはそうやって油断させて、徐々に逃げ道を奪っていくんだ……!」

「どこの凄腕軍人ですか」


 本気で脅える己の主に、ラウルは呆れた溜め息を吐き出す。そんなラウルをルシアンはじとっと睨んだ。

 子供のころからいまいち何を考えているのかわからなかったが、今回は輪をかけて分からなかった。いったい何がセフィリアをそこまで側室にこだわらせるのだろうか。

 ここ数日の出来事を思い出すが、原因はさっぱりわからなかった。変な奴らに変なことを吹きこまれてしまったのか?


「いや、セフィリアには男は近づかせないようにしてるしな……」

「何してるんですか」


 呟くルシアンにラウルは溜め息をこぼさずにはいられなかった。

 目の前には正妃が用意する側室にガタガタと脅える国王。悲しすぎる現実に、ラウルは頭痛がしてきた。これが南方の雄ともよばれるエスパドール国の王。……これこそが悪夢かもしれない。

 頭を押さえたまま渋い顔をするラウルをルシアンは睨みつけた。


「お前、失礼なことを考えているだろう」

「まさか、とんでもございません。こんなのが国王だなんて悪夢だ、とはちっとも考えてませんので」

「考えてるだろ!」


 両手を机に叩きつけて怒鳴るルシアンを適当に宥め、ラウルは書類の束を押しつける。その量にルシアンは眩暈を感じた。

 終わりの見えない執務にセフィリアの見えない画策。それを考えるだけでどっと疲れた。しかし、処理の山は増えるばかりでいっこうに減る気配がない。仕方なくルシアンは執務をするために、机に転がっていたペンを手に取った。




 ルシアンが執務室で頭痛と闘いながら執務をこなしているころ、中庭で優雅なお茶の時間を楽しんでいたセフィリアの元には大量の手紙が届けられていた。

 開封したそばから次々と新たな手紙がティーテーブルの上に積まれていく。その様子にエリサはティーポット片手に驚いたまま固まっていた。


「セフィリアさま、これはいったい……」


 脅えるエリサにセフィリアは微笑むだけ。それからティーカップを置くと手紙の束を広げた。すでにテーブルの上は手紙の山でいっぱいだが、そこに次々と絵姿が運ばれてくる。

 その一つを手に取り、セフィリアは熱心に中身を呼ぶ。さらには大量に積まれた絵姿も丁寧に見ていった。満足そうに頷くセフィリアに、エリサの好奇心が刺激される。

 エリサは持っていたティーポットを置くと、ゆっくりとセフィリアの座る方へと近づいた。それから山と積まれた絵姿を一つ手に取る。

 ちょっとした好奇心に押されるようにそれを開き――無言でそれを閉じた。エリサは己の主を振り返る。


「セフィリアさま、」

「あら、見ちゃったの?」

「見ちゃったの、じゃありません! これはどういうことですか!?」


 詰め寄るエリサにセフィリアがふふ、と笑う。幸せそうなその微笑みに、エリサの背筋に冷や汗が流れた。

 いつも何を考えているのか分からないセフィリアだが、今回ばかりは意味不明だった。今まで以上に意味不明だった。


「なんだってこんなもの……」

「あら、そんなの決まってるわ。陛下のためよ」


 力強く言い切るセフィリアに、エリサは眩暈を感じた。まさかこんな形(、、、、)で行動を起こすとは思っていなかった。

 セフィリアは熱心に手紙と絵姿を眺める。それからそれらを綺麗に分類し始めた。

 その作業をしているときのセフィリアは、本当に楽しそうだった。ここ最近では見ないほど、楽しそうだった。

 エリサは今ごろ執政室で書類と格闘しているだろうルシアンのことを考え、頭を抱えた。

 陛下、あなたの正妃は計画を着々と進めています。下手したら、明日にも側室が王宮に押しかけてくるかもしれません。

 うきうきとしているセフィリアの姿を眺め、エリサは重い溜め息をついた。




 セフィリアは目の前に山と積まれた絵姿を見つめ、にんまりとした。なかなかに計画は順調だ。さすがレナヴィスト公爵家の優秀な密偵たち。仕事が早いわ。そう思って、またにんまりした。

 これだけあれば、ルシアンも気に入るのがいくつかあるだろう。セフィリアは分類したそれらを、侍従たちに運ばせた。


「完璧だわ……!」


 陛下の喜ぶ顔が目に浮かぶようだ。そう思って頬が緩む。実はルシアンはちっとも望んでいないのだが、セフィリアはさっぱり分かっていなかった。

 今夜の晩餐が勝負だわ。セフィリアは気合いを入れた。



 そして運命の晩餐が始まる。






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