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序章――ある日、正妃が言いました。


 ある日、朝食の席で正妃がとんでもない一言を言った。


「陛下、側室をお娶りくださいませ」

「っ!?」


 空気も凍る。言われた国王は、茫然と目の前に座る正妃を見つめた。

 正妃は冷静な顔で目の前のスープを優雅に飲み干す。一方国王はというと、だらしなく開いた口からだらだらとスープがこぼれ落ちていた。すかさず侍従がそれを(ぬぐ)う。


「本気か?」

「もちろんです」


 間髪いれずに返ってきた返事に国王は頭を抱えたくなった。いや、実際に抱えた。

 目の前に居るのは己の正妃。それなのになぜ、側室を娶れなどと言うのだろうか。普通、こういうことは嫌がるものじゃないのだろうか。

 正妃が笑顔で側室を勧めてくる。悪夢だ。悪夢以外の何物でもない!

 咄嗟に国王は椅子から立ち上がり、目の前の正妃を睨みつけた。正妃はそんな国王を冷静に見返す。


「反対だ! 側室などいらん!」

「たくさんの側室を持つことも、国王の甲斐性の一つですよ」


 満面の笑みでそんなことを言われた国王は、一瞬頷きそうになり、慌てて気を引き締めた。


「俺の妃はお前一人で十分だ! 他の女などいらん!」


 国王は右手の人差し指で正妃を指差すと、高らかに宣言し――その場から一目散に逃亡した。控えていた侍従が慌てて国王の後を追いかける。

 正妃は運ばれてきたコーヒーを飲みながら、小さくなる国王の背中を見送った。その口元にはほのかな微笑が浮かんでいる。


「陛下、(わたくし)、言ったことは必ず実行しますわよ」


 そんな正妃の物騒な呟きはもちろん国王には聞こえなかった。




 ――中央大陸において、南方の雄とも呼ばれる大国「エスパドール王国」その国を治めるのは若き国王である。

 その国王は頭脳明晰・容姿端麗であり、若いながらも辣腕家として広く諸国に知れ渡っている。

 そんな大国の王でありながら、彼には妃がただ一人――正妃だけであった。

 彼女はエスパドール国内屈指の大貴族であるレナヴィスト公爵家出身であり、血筋でいえば正妃に大変相応しい人間である。しかし、彼女の容姿は十人に聞けば十人が「地味だ」と答えるであろう、実に平凡な容姿をしていた。

 国王と正妃は幼馴染みであり、国王が望んで彼女を妃に迎えた。穏やかで慎ましい結婚生活は、端から見れば上手くいっているようにも見えた。

 そんな結婚生活が崩壊の危機を迎えたのは、王妃が放った側室を娶れ、というその一言から。


 こうして、王宮内における国王と正妃の熾烈な攻防戦が、幕を開けるのだった。

 





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