↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR

でも今、今は僕しかいない。今助けることができるのは僕だけだ

作者: おりん
掲載日:2026/10/06

「でも今、今は僕しかいない。今助けることができるのは僕だけだ」



年末の候。


どんよりとした空、風は弱いが冷たい。


雨が降っていないことだけが救いだった。


白いミニバンが静かにゆっくり住宅地を走っている。


なにかを探しているように見える。



「いいひとの所に行くのよ・・・ごめんね」



ミニバンの後ドアが静かに開く。


「ごめんね」


そっと、そこに置かれた。



◇◇◇



・・・・・・なにか。鳴いてる。


「ねぇ、なにか声が聞こえない?」


「うん、さっきから・・・」


「子猫?」


「近所の?」


「飼い始めたのかな」


うらやましいな。



◇◇◇



聞こえる。


昨日の子猫の声がまだ聞こえる。


「ねぇ、なんか鳴き声がおかしい」


「うん・・・」


「助けを求めている?」


「切り裂くような声よね・・・」


「ちょっと外でてみる」


住宅地なので、どこで鳴いているのかわからない。


あの鳴き声だ、やはり、どこかの家に飼われているようには聞こえない。


どこかの庭?クルマの下?空き家?空き地?側溝の中・・・。


どこからかは分からない。


必死になにかを訴える鳴き声だ。


でもどこからかはわからない。


すでに気持ちは固まっていた。


「助ける」



◇◇◇



翌日。


「そろそろ行きましょう。お義母さんもお義父さんも待ってるでしょ」


「あぁ、そうだね」


「あの猫ちゃん、どうしたのかしらね。せめて誰かからご飯、もらっているといいけど」


「やっぱり捨て猫だな?」


「そうよね、たぶん」


「まだ聞こえるよ」


「うん」


でも、どこからかはわからない。


「まだ誰からも助けてもらえてないのよ」


「ね、もし。その猫を助けたら、そのまま飼ってもいいかな」


「・・・・・」


「僕も君も猫は結婚前に飼っていたんだから、大丈夫だよ」


「でもね・・・ご飯代とか病院代、予防接種とかいろいろあるでしょう?それに、わたし達よりも早く死んじゃうのよ。そんなのもう嫌なの」



◇◇◇



「君の言うことはわかるよ・・・」


僕はため息をつき、ガラス窓のカーテンを閉めようとした・・・・・。


表の道路の端をなにかが西から東に動いていた。


暗くてよくわからない。雲が厚く、低い。


昨日までとおなじ、引き裂くように鳴いて助けを求めていた。


「あ、あれだ!」


大声になった。


「ちょっと行ってくる!」


「え・・」



間違いなかった。


子猫だ。


白と黒のブチでハチワレだ。


たぶん生後1ヶ月はとうに過ぎている。


助けを求めて鳴きながらゆっくり歩いている。


僕には気づかないようだ。



どうしよう・・・・・。


ノープランだ。


猫は臆病なので、失敗してはいけない。


近づかなくなってしまう。


でもここで逃してしまうと、つぎはいつ会えるのかわからない。


だれかに助けてもらって、飼ってもらえるといい。


でも今、今は僕しかいない。今助けることができるのは僕だけだ。


「ええい」


追った。


その猫は僕に気づき驚いて逃げた。


どこかのクルマの下に潜り込まれたら、どうする?


どこかの庭に逃げられたら、どうする?


とにかく追いついて後ろから抱き上げたい。


その子猫は向かいの家の玄関先に逃げ込んだ。


あ、千載一遇!


逃げられない!


その子猫は玄関ドアに背を向けている。つまり僕と向かい合っている。


僕に向かって威嚇した。


玄関ドアは少し奥まったところにあるので、その子は右も左も動けない。


ここで、失敗するわけにはいかない。


ノープラン。


今、この今、この子猫を助けることができるのは自分しかいない。



その猫は体力がなかったので、あっさりと僕の腕のなかに収まった。


左腕が引っかかれた。


いつの間にか、近所のおばさんがいた。


「その子猫は捨て猫です。4、5日くらい前からずっと鳴いてます。昨日はあそこの家のクルマの下にいたんです」


おばさんは、


「かわいそうだけど、どうしようもないし・・・・・」


と言った。




「僕が連れて行きます」



「ありがとうございます。助かります」




こうやって家族がひとり増えることになった。


その子猫は雌で「ふっち」と呼ばれて、病気もほとんどしないで、13歳まで家猫として暮らしました。


僕たち家族4人に囲まれて、幸せな日々を過ごせたと思います。





了


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。