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交わらない君と君

作者: 山口甘利
掲載日:2026/03/26

 卒業とは別れでもあり、出会いでもある。

 同じ学校の仲良い子と、そのまま同じ学校へ進学するならば別れではないだろう。でもそんな人は少なく、それぞれレベルの違う学校へ行くだろう。

 同じ学校でもあまり話したことのない子と同じ学校にこれから進学するならば、それは出会いだろう。もちろん、新しい学校で知らない人と出会うのも出会いだろう。

 だから卒業は大切な行事なのだ。


 この中学校では色々な出来事があったなと思い返す。

 入学した時は、小学校からの友達で同じクラスの子がほとんどいなかった。

 そういえば今までとは違い、教科ごとに先生が違うことに驚いた。今となれば小学校はどんな授業だったかあまり思い出せなくなっている。

 あの家庭科室では僕らの班だけ、上手く豚汁が作れなかったっけ?最近の出来事だから結構覚えてる。

 確かこの体育館は途中から冷房がつくようになったから、バトミントンの時間がいつもより楽しくなった気がする。

 あそこの教室が中一の時で、あっちが中二。あの窓から車の数を授業中に数えたんだっけ。どれだけ暇人だったんだろう僕は。中一も中二も、ロッカーも靴箱も一番下だし。中三は靴箱は上の方だけど、ロッカーは相変わらず一番下。荷物を取っていれば、上から荷物が降ってくるんだよな。

 恋愛だってみんな本気だ。小学生の頃の恋愛なんて、君のこと好き!、私も!、それで終わりだったのに今は、こうすればあの子と話せるとか、こうすればキュンなことが起こるとか。頭脳戦にいつの間にか変わっていた。


 僕の恋は成功しないと思っていた。ずっと失恋した状態で、片想いをし続けると。

 でも仁美と繋がった縁はずっと切れていなかった。どんなに切れそうでも、まだ大丈夫、と必死に耐えていた。そして、この繋がっていたこの縁を、推しがもう一度結び直してくれた。

 そして僕たちは恋人となった。ずっと秘めていた想いをお互いに伝え合った。大好きだと。

 来月からも同じ高校なのが何よりも幸せだ。

 隣で一緒に校舎を歩いている彼女を見ていると、見られていることに気がついて小さく微笑んだ。やっぱり可愛い。

「なに?どーしたの?」

「ううん。なーんもない。ただ可愛いな〜と思って。小さいしー」

 僕と顔一つ分くらいある頭をポンポンとする。小さい所が本当に可愛い。

「チビじゃないもーん。ほら私今日ケープしてるから頭カチカチでしょ?崩したらダメだからね」

 そう言われて、もう一度触ってみると髪の毛がまとまって固くなっていた。というか、最初に触った時にケープに気がつかなかった自分が不思議だ。朝から頑張ったんだろうな。

「はーい。触んないよ」

 僕には一つだけ心でモヤモヤしていることがあった。

 中二に上がって少ししてから、このモヤモヤは一度消えていたけど、仁美と話すようになってからまた復活したこのモヤモヤ。あの二人は違う高校に行くらしい。だから実質会えるのは、この卒業式最後なのだ。だから、あの、その…。

 前みたいに…。思ってるのは僕だけかも知れないってのが気になる...。

 自分がどうしてこんなにも、あの三人に執着しているのか分からない。他に仲が悪くなった子だっているのに、どうしてこの三人だけはずっと、ずっと、胸の中にいるのだろう。

 仁美はとにかく優しくて、僕みたいな性格の曲がった考え方もポジティブに変えてくれる。周りをちゃんと見て、常に人のことを考えている。

 唯奈は親友と言えるほど、何でも言い合うことができた。お互い、他の友達には相談しにくいことをいつも相談していた。今はもうあんなにも色々なことを相談し合える友達はいない。恋人と親友はまた違うから。

 陽毬はいつも明るくて、学校とは別に習っている体操に一生懸命で。そこではたくさん賞を取ってて、勉強もできる。おもしろいことばっかり言って、場を和ませてくれる。


 今のクラスは僕が三組で、仁美と陽毬が二組で、唯奈が五組。仁美と陽毬は時々話しているのを見かける。でも、前みたいにわちゃわちゃと話していないのは、きっと僕のせいだと思うと辛くなる。

 確かあの出来事があってから、僕と唯奈は中二の最初まで仲良かったけど、部活のことで色々と揉めて、話さなくなった。陽毬とは中二まで同じクラスだったし、中二の時は隣の席になったり、前の席になったりしたけど、結局話すことはあの日以来なかった。そして、仁美とはライブの時から話すようになった。

 あの数ヶ月で繋がった仁美と陽毬と唯奈との絆はどの友達も深い。だから僕は前みたいになりたいんだ。だけど、でも…無理だよ。

 僕は唯奈のおばあちゃんの苗字に崎が入ってて、陽毬のおばあちゃんの苗字には﨑が入ってることだって覚えてる。大か立なのかも全部。

「そろそろ授与式始まるし行こっか」

「だね。何か持ち物いるっけ?」

「ううん、いらない。私だけ連れてって」

「任せてー」

 僕は仁美の手を引いて、体育館に向かった。最後の学校行事へと。


 授与式が終わり、教室に戻り、最後のHRを受けた。泣いている子だっている。確かあの子は高校と同時に他県に転校するんだったような。普通に仲良い子と離れるのが寂しくて泣いてる子だってたくさんいる。

 その後運動場に出て、在校生や保護者が作る花の道を通る。

 この一日のために、何人もの人が色々なことをしてくれているんだなと思うと感謝でしかない。

 ふと目が合ったのは、陽毬のお母さん。僕は気づかないふりをして、目を逸らして歩く。

 その周りにはお父さんと弟もいた。陽毬と仁美とこの三人で初めて遊んだ時は、陽毬の家だったからよく覚えている。夕食も手作りで作ってくれて、クッキーを焼いてくれたりしたのを思い出す。

 向こうは覚えてるかなんて分からないけど、でも自分にとっては陽毬と仁美との三人の大切な思い出だ。

 仁美との思い出は少しずつ増えているけど、陽毬とはもう増えないと思うと辛くなる。

 そういえば、僕の誕生日が確か一番仲の良い時期にあったからもらったけど、陽毬はもう少し後だったから渡せてないんだ。

 去年、先輩がどれだけ仲が悪くなっても誕プレをもらったなら返す、という話を聞いて、真っ先に浮かんだのは陽毬だった。

 僕の誕生日の少し後の仁美と唯奈には渡した気がする。だけど陽毬には...。

 何かを返すのがきっかけでまた話すようになるとかないかな...。渡せるのなら、渡したい。

「ねえどうしたの?今日卒業式だって言うのに、なんか気分が今まで見た時よりも暗いよ?」

 前を歩いていた仁美が振り返って僕にそう言う。そんなに顔や雰囲気に出ていたんだなと思うと少しだけドキリとする。

「そう?そんなことないよ。」

「まあ、なんとなく分かってるけど。簡単に言えば、仲直り、でしょ?」

 気づかれてたんだ、と心の中で呟き、僕は小さく頷いた。

「やーぱり。」

「実はさ、話してないことが仁美にあってさ。」

「うん。何?」

 僕が話そうと思った時に、いつの間にか終わっていた花の道の終着点にカメラマンがいて、今から写真撮影になった。

「後でちゃんと話してもいい?」

 仁美は分かった、と言ってカメラを向く。


 僕が話そうとしていたのは、もちろん唯奈と陽毬のことだった。

 僕は仁美と同じように仲直りしようとしたことがあった。

 時系列で並べば、陽毬と仁美と話さなくなったのは十二月。唯奈と話さなくなったのは翌年の四月、つまり中二になったばかり。その年の十月に仁美とLINEをして、そのまた翌年の四月に仁美とLINEした、つまり中三になったばかり。

 僕は中二の十二月に陽毬と仲直りしようとしたし、中三の七月に仲直りしようとした。

 陽毬が僕のインスタにフォローリクエストをくれたことがきっかけだった。陽毬と仲良い友達に聞いてみたら、僕のことをもう嫌いではないと言っていたらしい。

 僕がその友達にそのことを聞いたことが本人に伝わり、前みたいに話そう、とDMが来た。

 胸が飛び出るように僕は喜び、陽毬とDMをした。でも何日か続いた時に、その時同じクラスの女子が噂で陽毬が本当は仲良くしたくなかったと聞いた。だから僕は何かの罰ゲームでDMをしてるんだと思ってしまい、インスタから陽毬を消してしまった。その後それは嘘だったと知って後悔した。でも、勝手にインスタから消された陽毬は怒っているはず。だからどう弁解する勇気もなく、止まっていた。

 唯奈とは、部活みんなで行く打ち上げを理由にLINEをしたことがきっかけだった。

 そこに参加してもらって、もう一度話して仲直りしようと思った。でも唯奈は来なかった。多分今でも僕を恨んでるんだと思う。

 唯奈と揉めた理由は虚言癖だったからだ。色々な嘘で色々な人を迷惑かけていた彼女を僕は許せなかった。特に部活の仲間に嘘をたくさんついていたから、先生を含めて大事にした。

 最初は許せなくて、許せなかったけど、時間が経つにつれて、ちゃんと唯奈の意見を聞くべきだなと思うようになった。だけど唯奈は、僕が何も唯奈の話を聞かずに悪者に仕立て上げてしまったことを怒ってるんだと思う。きっと何かあったんだと思う。もしただの虚言癖なら逆ギレだけど。


 僕はこの二つを仁美に伝えた。

「そっか。そんなことあったんだ。二人とも話せないことはないから、仲直りしたいって言ってたことを伝えることはできるけど...向こうがどう思ってるかを知るのが怖いよね。」

「そう。だから僕はありがとう、って言葉だけ伝えようかな。」

 仁美は目を大きくして、僕を見る。

「ほんとにそれでいいの?手紙渡すとか、他にも色々考えれば案が出てくると思うんだけど。」

「うん。仁美と仲直りできたし、そんなに欲張ることないかなって。いつか神様が繋げてくれるって信じようかな。」

「碧がそう言うなら、私はそれを援助するだけだから。」

「ありがとう。仁美がいてくれて良かった。大好き。」

 えっ、今?、と少し笑いながら仁美も「私も碧のことだーいすき。」と言ってくれる



「あ、今二人だ!」

 仁美が陽毬と唯奈が二人で話しているのを指差す。

「行く?」

 不安そうな顔で僕に尋ねる。

「うん。最後だから。」

 少しだけ体が震えている気がする。大丈夫、大丈夫、と心に言い聞かせる。

 仁美が前を歩いて、それに僕が着いていく。


「二人とも〜卒業おめでとう。」

 明るい声で仁美が二人の輪の中に入る。

「ありがとう。仁美も。」

 陽毬がそう答えた後、僕の姿を見つける。

 僕は緊張する気持ちを抑えながら、二人の方に近づく。

「中一の頃は仲良くしてくれてありがとう。」

 声が震えているのをなんとか我慢して、僕は小さい声を出した。きっとこんなこと言っても、二人は困るんだろう。…そう思っていた。

「碧...やっと話せた。」

 唯奈は涙を流しながらそう呟いた。

「私も碧と話したかった。」

 陽毬もそう言う。

 二人も、話したかった...って本当?

 隣の仁美も少しホッとしたような表情をしていた。

「ごめんね、碧。嘘ついたことちゃんと謝りたいし、前誘ってくれた日は急におばあちゃんの体調が悪くなったことちゃんと伝えられなかったことも謝りたい。だからこれからいっぱい謝りたいから、前みたいに仲良くしよう。」

「謝りたいからって何?唯奈は本当にちゃんと正直に伝えられないんだからなぁー。」

 陽毬は唯奈をツンツンとする。それでまた唯奈の涙の量が増える。僕と仁美は微笑んだ。

 後から聞いた話だと、僕と唯奈が揉めた後に性格が変わって、二人とももう嫌いではなくなったらしい。

「私知ってる。紗良ちゃんが私が碧と仲直りしたくなかったって、変な噂伝えたこと。そりゃ怒るよね。でもその後私が紗良ちゃんに説教しといたから。だから誤解ね。でも前なんであんなことしたかはちゃんと聞きたいから、これからも仲良くして。」

 はい、と言って陽毬は右手を差し出す。握手ってことらしい。僕も右手を出して握手を交わす。

「陽毬も恥ずかしがってる癖に〜。」

 次は唯奈が陽毬をからかう。それを見てまた仁美と僕が微笑む。

 色々と勘違いをしていた自分を後悔する。いつの間にか震えも止まっていた。

「うん。僕も二人とずっと話したかった。これからまたよろしく。」

「私も四人でこうやって話せる空間をずっと待ってた。これからもよろしくね。」

 僕と仁美も二人にそう気持ちを伝える。

「「うん!」」

 陽毬と唯奈の声が重なってなぜかみんなツボに入る。

 陽毬の独特な笑い声、唯奈の高い笑い声、仁美の小さな笑い声、そして僕の引いた笑い声。

 そう。きっと僕は男子が一人で、女子が三人だったとしても、この中では自分のことをちゃんと認めてくれることが嬉しくってこの居場所が好きだった。きっとそれは四人みんなが思ってること。

 部活に入っていても、学校に毎日登校していても、僕には友達が少なくって、その友達にも僕なんかより仲良い子がいたから、結局僕はずっと一人だった。

 でもあの空間の中だけは、素の自分と仲良くしてくれたから。最初は一目惚れした仁美だけを考えていた。でもいつの間にか唯奈も陽毬も自分にとって大切な存在になっていた。

 例え違う学校にそれぞれが別れても、きっといつかまた同じ場所で再会する。いや、その前に何度も遊ぶ。

 これは僕と君と君と君の四人の物語だ。

最後まで読んでくださりありがとうございました。

誤字などの訂正があれば、気軽に教えて下さい。

今まで連載していたこのシリーズを今回で終了とさせていただきます。最初は短編一作(交わらない君と僕)のみの予定でしたが、今まで投稿した短編の中で一番、沢山の方が読んで下さっていたことを知り、続編を書かせていただきました。

本作は中学生の複雑な関係を書いてみました。少しでも共感していただけると、幸いです。

他にも色々な作品を書いていますので、そちらも読んでみて下さい。

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