第7話
予定していた仕事が全て終わり、夕食の席へ案内された。扉が静かに開くと、白い灯りに満たされた食堂の中央で既にミサキが凛として座していた。背筋はまっすぐ、所作は流れるよう。ただそこにいるだけで空気が澄むような、そんな存在感。
(……無理だこれは……二人きりで話すとか絶対に沈黙で死ぬ)
リョウカとミオは当然のように
「では我々は外で──」と下がりかけた。
反射的に、口が勝手に動く。
「あ、その……いてくれ。まだ本調子じゃないし。何かあったら困る」
言ってから後悔した。理由が苦しいのは自分でもわかっている。だが、もう取り消せなかった。
二人は一瞬だけ目を合わせ、静かに控えの位置へ戻る。ミサキの睫毛がわずかに揺れた。驚きか、困惑か──あるいは何も感じていないのか。
(……嫌がられた? デリカシーがなかったか……距離感わからん……)
ネガティブ思考が静かに転がり出す。
ミサキは完璧な微笑を形だけ浮かべ、会釈した。
「ご機嫌よう、将軍様。お身体の具合は、いかがでしょうか」
声は静かで柔らかい。だが感情が読み取れない。
アキトは喉を鳴らし、変に上ずった声を出してしまう。
「よ、よろしいです……」
(なんだよ“よろしいです”って……)
ミサキは返答しない。ただ黙々とナイフを動かし始めた。
沈黙が落ちる。重い。呼吸の音さえ気になる。
リョウカが空気を読み、控えめに口を開いた。
「将軍様。明日のご予定ですが──」
アキトは思わず救われた気持ちになった。話題が“仕事”なら逃げ込める。
その間も、ミサキは静かに食事を続けている。目を合わせてくるわけではないが、伏せられた睫毛の間から時折“観察するような視線”が流れてくる。
(……見られてる気がする。怒ってるのか……いや違うのか?いや、わからん。ほんとにわからん)
混乱しか生まれない。やがて、ミオが空気の重さに耐えきれなくなった。
「……あの、あたし外で見張ってくるわ。あ……じゃなくて、きます、です」
自主的に退室した。
その背を、ミサキがすっと目で追う。感情は読み取れない。アキトは、自分の中の不安がますます膨らむのを感じていた。
食事が終わりに差しかかったころ、ミサキが静かに言った。
「将軍様。どうか今夜はゆっくりお休みくださいませ」
ほんの少し頭を下げ、そのまま無音の足取りで部屋を後にした。
アキトは小さく息を吐く。
(……無理だ。距離が遠すぎる。どうすりゃいいんだこれ)
微かなバラの香りの残滓を感じながら、アキトは眠りについた。




