第6話
その後もリョウカからこの世界に関する細々した説明が続いた。どうも仕事になると手が抜けないタイプらしい。
説明は順序立てられ、理解がしやすいが、飛ばしても良さそうなことまで懇切丁寧に話してくれた。
その結果、説明が終わる頃には3時間近くたっていたらしい。廊下に出ると、思わずあくびが出てしまった。
待っていたミオがリョウカがいないことを確認し、早速毒を吐いてきた。
「あー、全くなんでこんなに話が長いのかな、あの女は」
その勢いに思わず苦笑いをしてしまう。
「待たせてごめんね。リョウカが丁寧に説明してくれて、助かったよ」
真面目に仕事をしてくれている人のことを悪くいう気にはなれない。話が長いのは本当だけど。
当の本人は独り言のつもりだったようで、その言葉に少しビクッとしていた。
「あっ……いや。まあ、将軍様が大丈夫つぅならな……」
バツの悪そうなミオの顔がおかしくて、思わず微笑んでしまった。
ミオもそれをみて、表情を崩す。女性と接した経験は豊富な方ではない。でもミオには自然と接することができた。子供だからか?
「聞こえてますよ」
その騒ぎを聞きつけて、片付けの途中のはずのリョウカが首だけ部屋の外に出してきた。相変わらずの無表情だが、不機嫌なことは何となくわかった。
リョウカは前の人生で関わったことの無いくらい綺麗な女性だ。でも不思議と、リョウカに対する苦手意識はない。もしかしたら、アキトとしての自分なら女性とも……
と思った瞬間、ミサキの顔が浮かぶ。顔が真っ赤になっていくのを感じた。
(やっぱりダメかも……)
そうこうしている間に、片付けを終えたリョウカが部屋から出てきた。
「説明が長くなってしまい、大変申し訳ございません。まだ病み上がりですのに……」
「構わないよ。ずっと寝ていたから、いい頭の体操になった」
リョウカが数秒まっすぐ見つめてくる。前言撤回。少し緊張しそうになる。でもふとわかった。きっと僕の体調を確認しているのだろう。
「お疲れだと思うのですが、先日は就任式を最後まで終えることができませんでしたので……実はささやかなお披露目の場を設けております」
「お披露目……?」
「はい。カミシロ将軍のご壮健を、首都の臣民たちにお示しするための儀式でございます」
ミオが肩をすくめてひと言。
「顔見せっすよ。皆カミシロ様を歓迎してるから……です」
リョウカが咳払いして案内する。
「では、バルコニーへどうぞ」
アキトは深く息を吸い、二人の後を追った。
重厚な扉が開き、夕陽の光と外気が流れ込む。明るい眼下には、石造りの建物と金属の梁が組み合わさった独特の街並み。窓の外を眺めたことはあるけど、外に出て、じっくり観察したことは初めてだった。
外壁を走る昇降機、伸びる煙突、蒸気の白い尾。古さと新しさが同居した、不思議な統一感がある。そして広場へ視線を向けた瞬間──整然と人々が並び、アキトを仰いでいた。皆がバルコニーを見上げ、静かに期待を向けている。
やがて、掛け声が一斉に広がった。
「将軍様──!!」
「カミシロ将軍様──!!」
「ご壮健を──!!」
拍手が波のように続く。国旗が一斉に翻り、広場が色づく。
(……ゲームのオープニング映像みたいだな)
胸がじんわりと温かくなる。
ミオが小声で話す。
「すげぇ人数っすよ……すごい人数ですよ……」
リョウカは静かに補う。
「就任のお披露目ですから。臣民たちも将軍様のお姿を心待ちにしておりました」
アキトは自然と手を挙げ、軽く振る。
「将軍様──!!」
「カミシロ様──!!」
規律ある歓声が、さらに大きく波打った。
(……悪い気はしないな)
ほんのわずか、肩の力が抜けていく気がした。




