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第5話

居室を後にしたアキトは、妙に胸がざわつく感覚を抱えていた。


(あんな綺麗な人と……緊張で目すら合わせられないのに、これから大丈夫か……)


気まずさと戸惑いを引きずったまま、リョウカの案内で別室へ移動する。


「将軍様。こちらが執務室です。この部屋では我らが国、西ルガン共和国の現状について、改めてご説明いたします」


大きな机に負けないくらい、大きな地図をリョウカが広げ始めた。


「うおーでけー」


無邪気にミオが声をあげる。


「ここからはあなたには難しい話をしますので、外で待っていてください」


リョウカは冷たく言い放つと、ミオを廊下の外につまみ出し、扉を閉めた。

外から小さく文句が聞こえる。


「あんにゃろー。ふざけやがって。あたしにも話聞かせろー!」


アキトは思わず小さく笑ってから、椅子に腰を下ろした。


「将軍様は全てご承知かと思いますが、これが伝統ですのでご辛抱いただけたらと思います。まず、我々の国、西ルガン共和国はここです」


大陸の東側、ほぼ端にある小さな国を指差した。縦長の国で、楕円形と長方形の間のような形だ。


「国境を接している国は三つあります。山脈を挟んで、西側にあるのがカカ王国とダルク帝国です。

このうちカカ王国との間には大きな貿易路が開通されており、貿易で強く結びついた友好国です。多方面で協力関係にあります。」


次に北西へ。


「こちらがダルク帝国です。地形の都合で広い貿易路が開通できませんが、いくつかダルクに繋がる道ができております。ダルク帝国とは軍事同盟を締結しており、西方のアウリス帝国とダルクの戦争を支援すべく、我らも西方へ部隊を派遣しています。その意味では間接的ではありますが、アウリス帝国と戦争状態にあります。」


アウリス帝国と書かれた国をまじまじと見つめる。カカやダルクも国土は広いが、それに負けないくらい。下手すればそれより大きい国だった。


次に、地図の右側へ指が滑る。


「東側の東ルガンとは現在も戦争状態にありますが、80年前のナギア大戦までは同じ国でしたが、終戦後東側の指導者の裏切りにあい、分裂しました。互いに壁を築いてからこの五十年間、大規模な戦闘は発生していませんが、依然として警戒が必要な状況です。ダルク西部に展開している軍を除けば、軍の大半は東ルガンとの国境に配備されています。我が軍の第一目標はこの東ルガンとの統一を果たすことにあります」


(何だろう……やっと戦略シミュレーションゲームっぽくなってきて、すごくワクワクする)


説明は続く。


「南西にあるタオヤン公国とは国境を接しておりません。同じくナギア大戦まではカカ王国と同じ国でしたが、60年ほど前に分離し、大河を挟んで睨み合っております。こちらも大規模な戦闘は長いこと発生しておりませんが、いつ起きてもおかしくはありません。」


「そして、東ルガンから海を挟んでさらに東──島国ナギア皇国は、先述の大戦で敗れて以来力を大きく失い、現在は大陸の国々からは全く脅威とはみなされていません。ですが……ナギア、タオヤン、東ルガン。国も文化も政治体制も異なる国々ですが、その全てに関わっているのが、ノヴァ合衆国です。ノヴァは現在ダルク帝国と西方で戦っているアウリス帝国の兄弟国です。ナギア大戦時にナギアと東方の海の覇権を争い、勝利しました。それ以降、ナギアはもちろん、タオヤンや東ルガンに対する影響力を強めています。大陸の中央には無数に国が存在しております。わが国との関わりは薄く、どの国も小さいことから、一般的には中央諸国という呼ばれ方をされます。こちらについては説明を割愛させてください。以上で、説明を終わりますが、ご認識と何か齟齬がありましたらご指摘いただけますでしょうか?」


齟齬も何も、初めて聞く情報ばかりだ。ただ、何も返事をしないのも不自然だ。ここは一つ、全てわかっているがリョウカを試すようなトーンで聞いてみた。


「当面の国は東ルガン、そして東側のノヴァとその兄弟国のアウリス。そしてその関係国にということだよね。我が国と比較すれば国土は比較にならないほど巨大になるけど、それに対する我が国の備えをどう考えているのかな?」


「軍については、後日ご紹介も兼ねて軍部との顔合わせを予定しております」


どうも、軍事は専門ではないらしい。


「では、近年悪化傾向にある指標はあるかな」


リョウカは淀みなく答える。


「ご心配なさるようなことはありません。西ルガン共和国は将軍様の父君が残されたまま、農業・漁業・工業。そして最新技術の開発まで多角的に発展しています。全ての国民には役割があり、失業率は非常に低い水準です。人口も増加傾向にあり、労働人口も軍の人口も安定して増え続けています」


アキトは全てわかっていたかのように頷いた。


(……今の所、最高難易度って感じが全然しないな……)


難易度は低いにこしたことがないはずなのに、なぜかアキトは残念な気持ちになっていた。

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