第3話
目覚めてから二十日が過ぎた。
医師に言いつけられた静養も終わり、ようやく廊下を歩けるまで回復した。
宮殿の天井は高い。
磨かれた木の床と、金属装飾の柱。
古風なのにどこか近代的でもある、不思議な建物だ。
シューっという音と共に、白い蒸気が噴き出てくる。
記憶の糸をたどり、つぶやいた
「スチームパンク……だっけ」
目線を上にあげると、女性が立っていた。
目覚めた時に最初にみた人物だ。
「将軍様。医師より報告を聞いております。本日から正式に公務に復帰する許可がおりました。本日は伝統に則り、就任後の説明を行えたらと思います」
「第3代将軍──アキト・カミシロ様。あなた様は西ルガン共和国の最高責任者であられます」
(ちゃんと説明のイベントがあるんだな。正直何もわからないことばかりだし、都合の良い伝統があって正直助かる……)
女性は軽く一礼した。
「改めまして リョウカ・シノザキでございます。将軍様の副官です。内政、軍事、外交。もしお困りごとがあれば何なりと私にお申し付けください。」
無駄のない綺麗なお辞儀をした。
(副官……頼もしいな)
音もなくアキトの後ろから少女が顔をひょっこりと出した。
「将軍様、こいつ一人で全部やってるわけじゃねぇですから。下に百人くらい部下もいますから遠慮なく使ってやれよな。」
リョウカはまぶたひとつ動かさず切り返す。
「その百人のうち一人は護衛へ左遷しました。書類を破いたり、シワをつけたりされては困りますので」
少女の口が「は?」で止まる。
「この礼儀を知らない小娘が左遷された、筆頭護衛のミオです。」
「……っ」
言い返せず悔しそうに歯を噛むミオ。
リョウカは淡々と続けた。
「ご成婚については既に公布されています。宮殿の管理の一部を奥方様が担当されています」
「…………結婚、してたのか……僕」
思わず言葉が漏れてしまった。
(前の人生じゃ女性と話すだけで緊張したのに……)
ミオがニヤつきながら肩をすくめる。
「ま、一ヶ月ぐらい会ってないし、緊張するよな……です」
リョウカが補足する。
「奥方様につきましても、就任直後ですので改めてご紹介させていただきます。」
「では、奥方様のお部屋へ向かいましょう」
リョウカが静かに先導し、ミオが金属靴を鳴らしながら前を歩き、振り返る。
「心配すんな、きっと首をながーくして待ってるよ……ます」
複雑な感情を覚えながら、アキトは深呼吸し、一歩を踏み出した。
こうして──“カミシロ・アキトとしての人生”が静かに始まった。




