第2話
まぶたがふるりと震え、柔らかな光が視界に滲む。
目はまだ開かない。
その代わり、耳に入る音でどこか別の世界にやってきたのだとわかった。
聞こえる音は機械音だった。乾いた歯車のような音が一定の間隔で刻まれる。
噛み合いの揃わない部分があり、一つだけ、硬い音が混じる。
それに時折排気されるプシューという音が聞こえた。
うるさい訳でも、気になるわけでもない。
ただ、この部屋が”動いている”ことだけを静かに告げる音だった。
目が開くと、見知らぬ天井が飛び込んでくる。
天蓋がついている。ベッドも大きい。
首をひねれば、木と金属が混ざったような調度品がいくつも見えた。
どこか古風で、それでいて近代的な……不思議な部屋だった。
上体を起こそうとした瞬間、女性の声がそっとかぶさる。
「将軍様……よかった……目を覚まされたのですね……」
ベッド脇に立つのは、気品を纏った女性。背筋が美しく、静かな瞳。整った容姿が隠せないほどの疲労で少しやつれていた。
続けて、バタバタと足音が近づいてくる。
「お、おおっ……起きたんすか!……あ、起き上りになったんすね。です」
語尾が苦し紛れに変換されている。快活そうな少女で、立ち姿だけでも“戦う人間”なのが分かる。
「気分、悪くねぇ……悪くないですか?」
地の口調は荒いが、必死に丁寧語に直そうとしているのが伺える。
先ほどの女性が小さく咳払いをする。
「あなた……持ち場に戻りなさい。将軍様の面前で見苦しい」
(将軍? ……僕が?)
戸惑った表情をすると、最初の女性は丁寧に説明を続けた。
「72時間前、就任式の宴で急に気を失われました。疲労が重なったのでしょう。念のためこの離れの寝室でお休みいただきました。」
「つーか、混ぜもんとかなぁ。直接くりゃぶちのめしてやんのによ……」
一瞬少女に冷ややかな視線を向けた後、女性は穏やかに言った。
「どうか今日はゆっくりお休みください。詳しいお話や予定のご説明は、明日に改めていたします」
少女が部屋の外を親指で指しながら言う。
「あたし、部屋の外で見張ってっからな。あ、見張っておりますので。……です」
(語尾だけ頑張って直すの可愛いな……)
最初の女性も静かに一礼し、少女と共に扉の向こうへ下がっていった。
部屋に残ったのは、広い天蓋ベッドと、聞き慣れない機械の微かな音。一人残され、深く息を吐きながら天井を見上げた。
体が重い。頭がクラクラする。目を閉じ、先ほどあった女性たちのことを思い出す。
「優しい人たちだったな……」
自分がどんな国の“将軍”なのかも知らないまま。この世界の優しさだけを信じて、眠気に身を任せた。




