表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/30

第27話

米倉での一件から、数日が過ぎていた。

その間、アキトはほとんど眠っていない。

朝も夜もなく、執務室にこもり続け、思いつく限りの手をすべて打った。


最初に動いたのは、同盟国への支援要請だった。

机に並べられた書簡に目を落としながら、アキトは静かに言う。

「……まずは、カカだ」


胸の奥に、わずかな抵抗があった。

先日の一件が、どうしても脳裏をよぎる。

それでも、口には出さない。


「正式な手続きを踏んで要請する。

ダルクにも同時に出してくれ」


「よろしいのですか」

リョウカが確認する。


「構わない」

アキトは即答した。


「このままでは、人が死ぬ。

 なりふり構っている場合じゃない」


「承知しました」

少し間を置いて、アキトは続ける。


「同盟国以外はどうだ」


「……世界に向けて、支援を求める形になります」


「できないか」


「我が国が弱体であると受け取られる可能性があります」


「分かっている」

アキトは短く答えた。

「だが、体面を守って餓死者を出すくらいなら、意味がない。

 できることは、全部やる」


「……かしこまりました」


支援物資は、想像よりも早く届き始めた。

ダルクからの物資は、想定より大幅に少なかった。


だが添えられた文面に書いてある理由は明白だった。

ー我が軍は貴国の軍と共に、アウリス帝国と戦っている。

 その状況下にありながら、最大限用意できた食料を送った。


「これ以上は、無理だな」


アキトはそれ以上、何も言わなかった。

一方で、人道支援として届いた物資は予想以上だった。


ノヴァ。

タオヤン。

東ルガン。

ナギア。


友好的とは言い難い国ばかりだ。

意図は分かる。

陣営の切り崩し。影響力の拡大。


それでも。

「拒めば、人が死ぬ」

アキトはそう言った。

「これでどれくらい持つ?」


集計された数字を確認し、リョウカが報告する。

「供給の量を最低限に引き下げることが前提にはなりますが、

 それで――一月は、持ち堪えられます」


「……一月か」

短すぎる。だが、カカからの支援があれば…


その後届いた、カカ王国からの物資にその淡い希望は砕かれることになった。

量は、あからさまに少ない。


書簡は丁寧で、礼も尽くされている。

だが、数字は雄弁だった。


だが、無償でもらう立場だ。それ以上のことは誰も言うことができなかった。

仕分けの最中、ひとつの袋に目が留まる。


「これは……」

袋を軽く叩く。

「ジャガイモか?」


「ジャガイモ?」

リョウカが答える。どうも知らない様子だった


「芋は国内であまり流通していません。

 見たことのない種類です」


「そうか」

アキトは短く頷いた。


栽培に関する知識が豊富にあるわけではない。

だが、主食の代わりになることくらいはアキトにもわかった。

「……これを植えよう」


「米だけに頼るのは危険だ。

 主食になり得る作物は、できるだけ広げる」


「承知しました」

アキトは続ける。


「併せて、農業全体の改善を進めたい。

 土壌の状況を確認し、必要があれば対策を考える。

 農業の専門家は呼べるか」


「国内には、適任者がおりません」


「なぜだ」


「これまで農業技術は、カカ王国の専門家に指導してもらっていました」


「……ならばそれでいい」


「ですが、呼ぶための資金が足りません」

言葉が、静かに落ちる。


「他に手段はないか?」


「他国の専門家なら手配できるかと」


「……なら、急ごう。一刻も早く手配してくれ」


「承知しました」

その場で、できることはすべて指示した。

アキトは、その時、確信していた。

――やれることは、全部やった。


残された時間は、もう一月もない。

手探りでも、不格好でも前に進むしかなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ