第24話
葬儀の翌日、永遠に続くかのように思えた雨が止んだ。
だが晴れ間はなく、空は今にも泣き出しそうな、煤けた灰色の曇天のままだった。
アキトは執務室にリョウカとミオを呼び、短く頭を下げた。
「……先日は、取り乱した。すまなかった」
ミオが一瞬きょとんとした顔をしてから、無造作に肩をすくめる。
「ありゃ、仕方ねえっすよ。あたしだって腹が減ってる時はあっくらい怒っから。……です」
いつも通りの調子。軽くて、深くは考えていない返事。
アキトはその言葉に少し救われながら、視線を横に移した。
「リョウカも……ごめん」
一拍。
ほんのわずかな、針が飛ぶような間を置いて、リョウカは答えた。
「……問題ありません」
声の調子は変わらない。言葉も、内容も、正しい。
だが――その返答は、いつものリョウカより、ほんの少しだけ遅れた。
それを指摘できるほどの確信はない。だが、自分が怒鳴ったことで壊してしまった何かが、まだ元通りではないことだけは分かった。
「……信頼を取り戻せるように頑張る」
リョウカは深く一礼し、すぐに感情を切り替えるように本題へ移った。
「アキト様の食料生産改革について、開始後から現在までの状況をご報告いたします。直近では若干の鈍化傾向にありますが、昨年同期比で生産量は大幅に増加しております」
重厚な真鍮の机に、資料が置かれる。
「供給量を増やした結果、街から飢える者はほぼいなくなりました。現在では庶民の間でも、食事を楽しむ余裕が生まれております」
アキトは、ゆっくりと頷いた。
「……よかった」
胸の奥で、静かに息をつく。
全部が失敗だったわけじゃない。派手な勝利も、劇的な成果もいらない。
反省を生かし、小さな改善を一つずつ積み上げる。
それでいい。それしかないんだ。
「この調子で続けよう」
リョウカは「承知いたしました」と答え、ミオは「飯がうまくなったって、評判いいっすよ」と白い歯を見せて笑った。
その頃、城下の巨大な石積み倉庫。
山のように積み上げられた米俵を前に、管理担当者が顔をしかめていた。
「……なんか、少なくないか?」
帳簿をめくり、俵の数を数え直す。
「そんなバカなこと、あるかよ」
周囲の者が苛立ち混じりの声を上げる。
「いや、何度も数えました! 帳簿も搬入記録も、数字は合ってるんです!」
「だよな。気のせいか……」
なんとなく、近くにあった俵を掴んだ。
――軽い。
いつも手に伝わってくる、ずっしりとした重みがない。
「……あれ?」
その呟きが、冷たい石造りの空間に落ちた。
外で鳴り響く蒸気機関の排気音が、やけに大きく、不気味に聞こえた。




