第21話
西ルガンが、主要国の新聞の一面を飾ることは、決して多くない。
地理的にも、政治的にも、世界の中心からは距離がある。
だが、その日の出来事は違った。
一つの報せが、瞬く間に各国を駆け巡った。
――西ルガン将軍の兄、暗殺。
場所は、ノヴァの国際発着場。
昼間の旅客が行き交う中で、
白昼堂々と行われた殺害だった。
被害者は、レイジ・カミシロ。
西ルガン将軍の実兄であり、外交上も無視できない立場の人物だった。
容疑者として拘束されたのは、タオヤン人の観光客とみられる男女のカップル。
だが、二人は一貫して容疑を否認した。
供述によれば、
「知らない女の人に、ただ驚かすだけだと言われた」
という。
贈り物を届けるよう依頼され、
中身については説明を受けていなかったと主張している。
共犯者の存在は不明。
供述にあった女性の存在は確認されていない。
事件は静かに起こった。
発着場には警備の人員が配置されていた。
それは抑止として機能する存在であり、
起きた出来事を漏らさず記憶するためのものではない。
事件は、その境界をすり抜けるようにして起こった。
ノヴァ当局の捜査の結果、事件は個人による犯行であり、
特定の政治的思想や国家的意図に基づくものではないと結論づけられた。
だが、この結論をもって事態が収束することはなかった。
カカ王国とダルク帝国は、同盟国の要人が殺害されたとして強く反発。
ノヴァおよびタオヤン両国に対し、不十分な発着場の警備、
および明白なテロ行為であるとして、厳重な抗議を行った。
これに対し、ノヴァおよびタオヤン両国は、
関与を全面的に否定。
だが、国際会議の場では非難の応酬が続き、
責任の所在を巡る議論は平行線を辿った。
場面は変わる。
西ルガン宮殿。
会議室では、いつも通りの議題が進行していた。
報告。確認。次の案件。
アキトは、淡々と資料に目を通していた。
その背後に、一人の側近がそっと近づいた。
リョウカだった。
彼女は一瞬、言葉を選ぶように視線を落とし、
次の瞬間、アキトの耳元に身を寄せた。
短い一言。
それだけだった。
アキトの表情は、一瞬で変わった。
血の気が引き、目が見開かれる。
椅子の肘に置かれた手が、わずかに震えた。
「……え?」
アキトの視界が、一瞬だけ歪んだ。
音が遅れて届く。
耳鳴りのような、警報音。
赤い光が、視界の奥で明滅する。
――最高難易度:BRUTAL
そんな文字が、はっきりと浮かんだ気がした。
失敗を前提とした設計。
一つの判断ミスで、すべてを失う世界。
実際に、何かが見えているわけではない。
それでも、
確かに“そう感じた”。
だが――
これは、ゲームではない。
セーブも、リロードもできない。
一度失われたものは、
二度と戻らない。
選択は常に一回きりで、
結果だけが、積み上がっていく。
アキトはその事実を、ようやく理解した。
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第一章 了
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次回より、第2章。
以後週2回更新となります。




