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第1話

無の色が段々と白くなってくる。


目が開けられる。体?らしきものもどうやらあるらしい。


辺りを見回すと何もない白い空間に、ぽつんと受付カウンターだけが置かれていた。


(……へえ死後の世界ってこんな感じなんだ)


その向こうで、誰かが書類をめくりながら気のない声音でつぶやく。


「あ、すみません。まだ死後の世界じゃないです」


(……え)


急に現れた気配に体が仰け反る。


「……ああ、予定よりずいぶん早いですね。困ったな……本当にもう……」


声の主からは感情を感じられない。声はボソボソと聞きづらい。それでも声を張る気はないようだ。


(……ここは?)


「魂の部屋と呼ぶ方が多いです。死後の世界の前に寄る場所、みたいな」


返答が返ってきて初めて、自分が声に出していなかったことに気づく。


(思考が……)


「はい。思考が読めます。そういう仕様なんで」


その人物はやる気のない視線をこちらへ向けた。


おそらく男性なのだろう。

死後の世界には天使がいるのが相場だと思っていたが、目の前にいるくたびれたスーツや白髪の男はまるで地元にいた一番仕事のできなそうな公務員のようだった。


「さて……あなた、自死ですね。

殺した人が他人か自分かに関わらず、殺人を犯した方の行き先は基本的に地獄となります」


(……は?)


「そういう仕様なんで。すみません。もしクレームがあれば、行った先でお願いしますね」


露骨に時計を気にしている。どうも定時が近いらしい。


(えっと、すみません。頭がこんがらがっていて……あなたは?)


「名乗るほどの者でもないんですが、もし名前が必要でしたら、“管理人”とでもお呼びください」


それ以上の説明はない。する気もなさそうだった。


「もう良いでしょうか?ひとつ困った点があってですね、ご相談なのですが……」


書類をめくりながら続ける。


「あなたの天命……あなたの世界の言葉でいうと寿命……でしたっけ。がまだ残ってるんですよ」


(……寿命が?)


「はい。予定より早く死なれると、書類が全て書けなくてですね……処理が進まなくて困るのですよ……よろしければ“ コンティニュー” していただけますか」


(コンティニュー……って?)


「……ああ。なんと言ったらいいですかね。どこかのからで残りの寿命を過ごすだけです」


(……コンティニューしたくないからここに来たんですけど……)


「ですよね……間違って死んじゃった方は元の空に戻しても、そこそこうまく行くのですが……自分で終わらせた人はすぐ戻ってきちゃうから困るんですよね」


書類を机にトントンと揃えながら言う。


「まあ、適当に処理していたんですが、最近規則が変わりましてね。空の入れ替えをやることになったんですよ。で……何か“希望”あります?こんな人生なら続けてもいいかな、ってくらいのがあれば」


(……なんか物件探しみたいなノリ……)


考えたこともなかった。人生が楽しいと思えたことなんてほとんどない。

お金持ちになる?……悪くはないだろう。好きなだけゲームができる。

女性にモテる?……それは別に要らないか。ゲームさえできれば……


うん?ゲーム……?


(……じゃあ、難易度マックスの国家運営をやりたい……とか。)


はじめて男と目があった。


端末を叩く音が、心なしか弾んでいるように聞こえる。


カタ……カタ……カタ……


「……ああ、ありました。はい。条件にあった空が。」


(え……行けちゃうの)


「はい。上からちゃんと希望を聞くように言われてるんですが、必ずしも希望通りの空があるわけではないので。よかったですね。じゃあ、行きましょうか」


(あ……ちょっと!達成目標とか、クリア条件みたいなのは?)


「強いていうなら、天命を全うにしていただければ手続きが楽になります」


淡々と続ける。


「みなさん、けっこう好きにやってますよ。美味しいもの食べたり、遊んだり。採点がほとんど固まってるんで、あとはもう手続き上の問題なんで、天命まで生きていただけたら、人助けしようが、物盗もうが、あとはお好きなように」

男は、まだ時計を気にしている。


「じゃ、もう行きましょうか」


聞きたいことは山ほどある。だが、どうもまともな答えは期待できないらしい。

諦めて、つぶやいた。


(はい……わからな)


「では──」


同意を得られたと判断し、男は食い気味で答えた。

書類をパチンを閉じて、気の抜けた仕草で片手を上げる。


「いってらっしゃい。」


視界の中の白い色が段々と黒くなり、再び無に戻った。

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