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第16話

軍部の会議が終わり、アキトはそのまま夕食へと向かった。


廊下を進む足音が、三つ重なっている。


一番後ろを歩くミオの足取りは、いつもと変わらない。

軽く、迷いがなく、どこか弾んでいる。

何も考えていないわけではないのだろうが、

少なくとも今は、今日の会議のことなど頭の片隅にもないように見えた。

(……夕飯、何かな)

そんなことを考えていそうな、気楽な歩調。


対照的に、先を歩くリョウカの足音は規則正しかった。

軍靴が床を打つ音が、一定の間隔で響く。


コツ、コツ、コツ。


乱れはない。だが、冷たい。


式典以来、リョウカはほとんど口を開いていない。

必要な指示だけを簡潔に伝え、それ以外は沈黙を保っている。


その足音が、アキトのこめかみを、じわじわと刺激した。


ミサキとの二人きりの食事。

それを思い浮かべると、胸の奥が少しだけ縮こまる。

だが、それでも。


(……今は、そっちの方がマシかもしれない)


リョウカと同じ空気の中にいるより、

気まずさの種類が違う分、まだ呼吸ができる。

そう思ってしまう自分に、少しだけ自己嫌悪を覚えながら、アキトは歩き続けた。


夕食の席にはいつものようにミサキが先に座っている。

その目にアキトを捉えると、優雅に立ち上がり、一礼し、そしてまた座った。


いつも通り、リョウカとミオが退出しようとする。

それをいつもは呼び止めていた。


だが、今日は何も声をかけなかった。

立ち去るリョウカの顔には感情がない。


だが、ミオは将軍と同じ豪華な食事にありつけず、いささか残念そうだった。


扉が閉まり、静寂が残る。


ミサキと二人きりになるのは、初めて顔を合わせた日以来だった。

長い時間が経っているはずなのに、距離はほとんど縮まっていない。


アキトは、ぎこちなく笑顔を作り、ミサキに向けた。


「ごきげんよう、将軍様」

ミサキは、いつもと変わらない調子で応じる。


完璧な挨拶。

完璧な微笑。


そのまま、二人は席につき、黙々と食事を進め始めた。

食器の音だけが、静かに響く。視線は、合わない。


だが、外せば、見られている気がする。

視線は、合わない。

だが、外せば、見られている。


気配だけが、そこにある。


再度、視線を上げる。


今度は目が合った。


だが、言葉は生まれない。


ミサキの視線に耐えきれず、視線を落としてしまった。

いつも通りの居心地の悪い沈黙。


だが、今日はそれだけではない。

胸の奥で、さっきから同じ言葉が、何度も浮かんでは消えている。


意を決して、口を開いた。

「あの……」


声が、少しだけ震えた。

「今日、あの場に……いましたよね」


ミサキは、まっすぐと目を見続けていた。


「その……」

言葉を探す。

「僕は……どうでしたか?」


沈黙。

一秒。

二秒。

三秒。


時間とミサキの瞬きだけが、ゆっくりと積み重なっていく。

十秒を超えた頃、ようやくミサキが口を開いた。

「……ご立派だったと思います」

完璧な微笑とともに、そう告げる。


言葉は、否定ではない。

だが、そこに賛同の熱はなかった。


アキトは、

胸の奥が、さらに沈んでいくのを感じた。


(……やっぱり、か)


責められてはいない。

否定もされていない。


それなのに、鉛玉を括り付けられたようにゆっくりと心が沈んでいった。


食事は進み、器は空になり、時間だけが過ぎていく。


やがて、ミサキが静かに立ち上がった。

「……どうか、ゆっくりお休みください」


いつも通りの言葉を口にし、ミサキは部屋を後にする。


扉が閉まり、アキトは一人、取り残された。


蝋燭の灯りが揺れ、影が壁に伸び縮みする。


静かだ。

あまりにも、静かだった。


アキトは椅子に深く腰を下ろし、天井を見上げる。


(……何も、間違ってない)


そう思おうとする。


だが、沈んだ心は、簡単に浮かび上がってこなかった。

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