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第15話

会談の結果はすぐに軍幹部に共有され、緊急会議が召集された。


いつもなら胸が高鳴る軍部との会議。

だが、そこへ向かうアキトの足取りははっきりと重かった。


扉の外に漏れ出てくる軍人たちの声。

誰かが話し、

別の誰かがそれに応じ、

言葉は途切れることなく流れている。


怒号ではない――

だが穏やかとも言えない。

なかなか扉を開けようとしないアキトを急かすように、

リョウカが扉をあけ、入室を促した。


その瞬間、

中の音が、嘘のように消えた。


視線が集まり、全員が起立する。

一礼ののち、規則正しく着席する。


しばらく沈黙が部屋を支配した。

(……何も間違ってない……それなのに、何だよ、この空気)


年配の将校がゆっくりと発言を始めた。

「この度のカカ王国との外交儀礼について、お伺いいたしました。

 その中で将軍様が長年続いた不平等に一石を投じて下さったと聞いております」


賛同。

はっきりとした肯定。


「ここにいる一同胸がすく思いであります」


アキトは、ほんのわずかに顎を引く。

(ほら)

内心で、拗ねた声が言う。

(ちゃんと評価されてるじゃないか)


だが、その声に続く言葉は、少し違った。

「一方で、カカは経済・産業の両面において

 我が国にとって重要な取引相手でもあります」


事実だけが置かれる。


「今後の対応については、

 引き続き慎重に検討していく必要があるかと」


検討。

慎重。


どれも、責める言葉ではない。


だが、責められていることはアキトにもはっきりと伝わった。


若い将校が、勢いよく声を上げる。

「何を恐れることがありますか!

 むしろ我々に有利な条件で締結を迫るべきです!」

さらに踏み込む。

「それで刃を交えることになるなら、我が精鋭たちが――」


別の幹部が、ちらりとその男を見る。

言葉を止めるのにはそれで十分だった。


会議は回り続ける。だが結論があるわけではない。


(……僕の発言に賛成してる人ばかりだ)

(みんな賛成なんだ)


なのに。


胸の奥に、

言葉にならないものが溜まっていく。


(誰も責めてないのに)

(なんで、こんな気分になるんだよ)

子供じみた不満が、頭をもたげる。


(結局、何が気に入らないんだ)

(ちゃんと言えよ)

アキトは視線を落とし、


机の木目をなぞる。


そのすぐ隣に、リョウカがいる。

彼女もまた、口を開いていない。

背筋を伸ばし、

議論を追いながら、何かを考えている。


そして、視線が動く。

サラ。

サラ・シノミヤは、

この場でただ一人、

最初から最後まで一言も発していない。


目が合った。

ほんの一瞬。

だが、その一瞬で、

胸の奥を、針で突かれたような感覚が走る。


(……見るなよ)


思わず目を逸らす。


サラは、何も言わない。


評価もしない。

擁護もしない。


ただ、視線を外してもサラが静かに、まるで猫のようにじっとこちらを見ていることを感じた。


(計画通りだ)

アキトは、心の中で繰り返す。

(問題ない)

(ちゃんと、やれてる)

拗ねた声が、必死に言い張る。


だが、その奥にいる、別の自分の焦りが消えない。

理由は言えない。何が悪かったのかも、はっきりしない。


それでも、「何かをやった」感触だけが、確かに残っていた。

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