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第14話

謁見の間は、思っていたよりも静かだった。

天井は高く、壁には装飾が施されている。


だが、威圧感はない。

軍事国家の中枢というより、長く使われてきた応接の場――そんな印象だ。


正面に並ぶのは、カカ王国の使節団。

中央に立つ年配の外交官は、穏やかな表情を崩さない。


背筋は伸び、視線の動きにも無駄がない。

「このたびは、西ルガン第3代将軍アキト・カミシロ様のご就任、まことにおめでとうございます」


よく通る声。

過不足のない、儀礼的な口調だった。


「遠路はるばる、ありがとうございます」

アキトは定型通りに応じる。


両国の友好関係。

これまでの協力。

今後も変わらぬ関係を築いていきたいという言葉。


(想像通り、形式的な場だな)

そんな感想が、自然と浮かぶ。


表面的な言葉のやりとりが終わり、外交官が別れの挨拶に入ろうとしたとこで、

アキトは仕掛けた。

「一点、確認してもよろしいでしょうか」


一瞬のためらいの後、外交官はうなずいた。

「もちろんです」


「今回の使節団についてですが……」

軽く息を整えて続ける。


「国王陛下ご本人にはお越しいただけなかったのですね」

一瞬、空気が止まる。


外交官は、表情を変えない。

「陛下は多忙につき、今回は我々が代理として参っております」


アキトはうなずき、それ以上は掘り下げない。

「実は、条約文にも目を通させていただきました。通行権や関税、資源取引の条件について――」

アキトは言葉を続ける。

「一見すると普通の条件の中に、時折、釣り合っているとは言い難いものが混じっているように思えまして」


沈黙。


アキトは、その沈黙を埋めるように話す。

「もちろん、即座に変更を求めるものではありません」


返答はない。


「ただ、国の状況は変わります。今は問題がなくとも、将来的には調整が必要になる場面も出てくるでしょう。

 西ルガンとしては、カカ王国と対等な関係を築いていきたいと考えています」


「……」

相槌すらない。

ミオが、無意識に一歩前に出る。

柄に、指がかかる。

それに呼応するように、

使節団側の護衛も、静かに手を動かした。

一触即発。


その重い空気を切り裂くように外交官が口を開いた。

「いやあ、本日は、貴重なお時間をいただき、ありがとうございました」


その声は、緊張に全く似つかわしくない、明るく快活だった。

「カミシロ将軍は、たいへんに率直で、力強いお方だ」

にこやかに、そう言う。


「西ルガンの未来を担うに、これほど頼もしい方はいらっしゃらないでしょう」


アキトも、息をつく。

やった……会談は……成功だ。


「伺ったことは――国王陛下に、しかとお伝えいたします」


外交官は深く一礼し、護衛と共にゆっくりと部屋を後にした。

使節団が廊下に出て、扉が閉まると、ミオは溢れんばかりの笑顔を浮かべていた。


「……すげえっす。完全に格の違い、見せつけた感じっすね」


アキトは軽く笑う。

「大げさだ」


「でも、かっこよかったっす」

悪い気はしなかった。


振り返ると、リョウカが立ち止まっている。

表情は固く、何かを言いかけて、結局口を閉じる。


何かがおかしい。

アキトは違和感を覚え、サラを見た。


サラ・シノミヤにいつもの軽さはない。

視線を伏せたまま、低い声で呟いた。


「……あれは」

一瞬、間。

「……あかんかったわぁ」


その一言だけ。

理由も、説明もない。


さっきまで耳に入らなかった、無機質で規則正しい蒸気と歯車の音が、妙に耳の中に響き始めた。


気づいた時には、もう遅い。

――そんな予感だけが、残った。

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