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第11話

車を降りた瞬間、空気が変わった。

宮殿の周辺より湿り気があり、土と水の匂いが濃い。舗装されていない地面を踏む感触が、思った以上に現実的だった。


「……思ってたより、ちゃんと村だな」

口に出してから、少し間の抜けた感想だと思う。後ろでは、ミオが家並みや井戸に目を向けては、興味深そうに視線を動かしている。


リョウカは村長を呼びに車から離れた、

サラは一歩引いた位置で、村人たちの様子を穏やかに眺めている。

ミサキは最後に車から出てきたが、振り返って様子を見るのが怖い。 なんかすごく睨まれてる気がするがきっと気のせいだ。謝った方が良いのだろうが謝るのも将軍の威厳というものに関わる。やめておこう。


数分後、リョウカが村長を連れて戻ってくる。村長の足取りが重く、背中が小さく丸まってた。

「将軍様。ようこそお越しいただきました。村長のキタハラです」


声は小さく弱々しい。

(年のせいかな)

この年齢で村をまとめていれば、身体にがたが来ていても不思議じゃない。


「歓迎いただき光栄です。この村に来たのは初めてなのですが、様子を聞かせていただけますか?」


その言葉を受けてキタハラは少しだけ肩の力を抜いたように見えた。まずは、ごく一般的な説明だった。

人口、主な産業、収穫量。城下との往来や、近隣の町との関係。

「大きな問題は、特にありません」


村長はそう言って微笑んだ。


「何よりですね。でもせっかく来たので、気になることがあったらなんでも言ってください。もしかしたら力になれることがあるかもしれません」

アキトは微笑みかける。今のはとてもリーダーっぽいセリフが言えた気がする。


村長はしばらく考え込んだあと、

「……では、一つだけ」

 ほんの一瞬、視線が足元に落ちる。

「水の件ですが……」

 声は落ち着いている。先ほどまでよりも同じ調子で、淡々と続けた。

「近年、供給が安定しておりません」


(ああ、生活インフラか)

話の流れとしては自然だった。


「原因は、水道管の老朽化にあると考えております」

案内されて向かった先で、水道管の一部が露出しているのを見せられる。表面はくすみ、補修の跡がいくつも残っていた。


「……古いな」

専門知識がなくても、それだけは分かる。


「耐用年数は、かなり超えていますね」

リョウカはそう言ってから、ほんの一拍置いた。

「破損が起きても、不思議ではありません」

それ以上の説明はしない。


「全部取り替えるのは、さすがに厳しい?」


「難しいと思います」


少しだけ間を取って考える。


財政は安定しているはずだ。しかし、この村以外のインフラの状況がどうなっているかはわからない。特定の村だけに予算を注ぎ込んでしまうと今後何が起こるかわからない。また、一斉に取り替えれば、村民の生活に影響が出るのだろう。


思い返してみると、戦術や戦略が問われるゲームを好んで遊んできた。その中で、内政の要素が盛り込まれているゲームも数多くあるが、劣化したインフラまで気にしないといけないようなシビアなゲームはなかった。


なるほど、これは難易度MAXと言えるかもしれないな。


その経験の中でも遊んだことのある地味でマニアックなゲームで学んだことを一生懸命に思い浮かべた。しばらく考え込んだ後、自分でも驚くほどすらすら言葉が出た。


「優先区画から交換しよう。工事中の給水は確保して、隣町にはこちらから説明を入れる。これならできる?」

しばし考える仕草を見せた後、リョウカは頷いた。


「可能です。将軍様の差配通りに手配いたします」

通った。胸の奥がわずかに高鳴る。


 ——今のは、僕が決めた。

この国に転生して1ヶ月近く。思い返せばほとんどリョウカ任せになっていた気がする。世界のルールと知識を覚える期間だと割り切っていたが、そろそろ決断をして実行してみたいとウズウズしていたのだ。


村長はその言葉を聞き、深く頭を下げた。

その拍子に、背中がわずかに揺れる。両手に力が入っているのか、指先が白くなっていた。

「……ありがとうございます」


振り返れば他のメンバーが後ろに立っていた。ミサキは相変わらずの無表情っぷりだったが、ミオとサラは笑顔だった。


 サラが、穏やかな口調で言う。

「村長さん、えらい喜んではったねぇ。……ふふ、さすが将軍はんやわぁ」


「そうかな」

自分では、考えるより先に言葉が出た感覚だった。視察を終え、村を後にする頃には、来たときとは景色の見え方が少し違っていた。


大きな出来事が起きたわけじゃない。ただ、自分の判断一つで、人の生活が実際に動き出す。その感覚だけが、はっきりと残っている。車に揺られながら、ぼんやりと考える。


国家運営シミュレーション。


といっても、画面を閉じるボタンなんて見当たらない。限りなくリアルなこの世界で、僕の本編がやっと始まったんだ。


疲れのせいか行き道よりも静かな帰り道。夕陽に照らされる車窓の中、一人アキトは微笑んだ。

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