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ノックひとつで

第四十話

ノックひとつで


その頃――

砦でも、港でもない場所で、

僕は風を感じていた。


地面は固く、

空はやけに広い。


見上げれば、

翼を持つ者たちにとって都合のいい高さと、

そうでない者を振り落とす段差が、

無遠慮に並んでいる。


ここは、

新大陸の魔族側拠点だった。


人間の町だった名残は、

まだ色濃く残っている。


石畳。

建物。

崩れていない壁。


けれど、

整えられてはいない。


直されてもいない。


奪われたまま、

使われている。


「おーい、ここまででいいだろ?」


ノーヴァ族の一体が、

でかい声で叫ぶ。


たてがみを揺らし、

地面を蹴り、

すでに別方向を向いている。


「腹減ったぞ!

 将の顔見る前に干からびるわ!」


「じゃあ噛みつく相手でも探してなさいよ」


フェッロ族の女が肩をすくめる。


「どうせ話の半分も聞かないんでしょ?」


「聞く気はある!

 理解する気がないだけだ!」


ノーヴァ族が胸を張る。


フェッロ族の男が、

軽く手を振った。


「報告って柄じゃねえしな。

 俺たちはここまでだ」


「また後でね」


女が言い、

二人は軽やかに方向を変える。


ノーヴァ族も、

ぞろぞろと続いていった。


騒がしさが、

そのまま遠ざかっていく。


静かになりすぎる前に、

ゾフ族が振り返った。


「よし。

 じゃ、こっちだ」


軽い。

だが、迷いはない。


ゾフ族は、

僕と運び屋を見て、

首を傾ける。


「二人とも来るんだな?」


運び屋が、

短く頷いた。


僕も、

それに倣う。


案内は、

自然とゾフ族が引き受けた。


通路は広い。

高低差もある。


かつて人が集まったであろう場所に、

今は魔族たちが思い思いに腰を下ろしている。


武装はしている。

だが、構えてはいない。


ここは、

守る場所ではなく、

“集まる場所”だった。


建物の奥――

天井の高い空間へと近づく。


装飾は派手だ。

彫刻も、布も、

人間の美意識そのままに残っている。


ただし、

使い方はまるで違う。


整列も、

秩序もない。


それでも、

中心だけは、ぽっかりと空いている。


ゾフ族が、

足を止めた。


「ここからは、俺が話す」


一瞬だけ、

いつもの軽さが引っ込む。


「お前らは……

 まあ、挨拶だな」


辿り着いた先にあったのは、

大きな扉だった。


装飾は派手だが、

意味はない。


権威を示すためではなく、

“気に入ったから”

そう置かれているだけのような扉。


ゾフ族が、

三度叩く。


「おーい」


間。


中から、

気だるげな声が返ってきた。


「開いてるー」


扉が、

内側から雑に押し開けられる。


風が、

外へ流れ出た。


そこに立っていたのは――

翼を持つ女だった。


装飾品を身につけ、

玉座めいた椅子に片足をかけたまま、

こちらを見る。


視線はまず、

ゾフ族を素通りした。


運び屋に向く。


「……あ」


少しだけ、

眉が動く。


「アンタ戻ってきてるってことはさ」


軽い声。


「ヴァルグちゃん、元気?」


運び屋は、

短く答えた。


「健在だ」


「そ」


それだけで、

興味は終わる。


「ならいいや」


視線がゾフ族に戻る。


「で?」


「今回は何?」


重さはない。

威圧もない。


ただ、

“聞く価値があるかどうか”

それだけを量る目。


ゾフ族が肩をすくめる。


「ちょっと面白い話」


その一言で、

翼将の口角が上がった。


「へえ」


そして、

ようやく僕を見る。


「あ、誰それ」


拒絶も、

興味もない。


「ま、入って」


顎で中を示す。


「立ち話めんどい」


――

こうして、

風の将との対面が始まった。

つづく

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