それでも進む
第三十九話
それでも進む
キャラバンは、
その後も止まらなかった。
街道の脇には、
既に動かなくなった影がいくつか転がっていた。
血は乾き、
風に晒され、
もう「戦い」と呼ぶには静かすぎる。
襲撃の痕跡が残る街道を抜け、
川沿いを進み、
舗装の整った道へ入る。
荷車の数は変わらない。
欠けたものもない。
それが、
すべてだった。
「……助かった」
最初に声をかけたのは、
御者の一人だった。
恐る恐る、
だが確かに、安堵の色を浮かべている。
「本当に……助かりました」
「命だけじゃない。
積み荷も、全部だ」
次々と、
言葉が重なる。
頭を下げる者。
握手を求める者。
感謝を並べ立てる者。
それは、
自然な反応だった。
リラは、
少し戸惑いながらも受け止めている。
シェリスは、
腕を組んだまま鼻を鳴らした。
「へえ。
ずいぶん喜んでるじゃん」
フィロは、
歩みを止めない。
視線も向けない。
ただ、
淡々と答えた。
「仕事だ」
その声に、
熱はなかった。
「守られる側が生き残る。
それだけだ」
御者の一人が、
一瞬言葉に詰まる。
それでも、
笑顔を崩さない。
「それでも、です。
俺たちは――」
「気分のいいものじゃない」
フィロは、
言葉を遮った。
足を止め、
初めて振り返る。
「守ったからといって、
誇ることでもない」
空気が、
一拍だけ止まる。
だが、
次の瞬間には、
誰かが笑った。
「堅いなあ!」
「そういうもんか!」
「英雄ってのは、だいたいそんなもんだ!」
称賛の熱は、
下がらない。
フィロは、
それ以上何も言わなかった。
ただ、
歩き出す。
シェリスは、
その背中を見て、
一瞬だけ眉をひそめた。
やがて、
視界が開ける。
交易都市だった。
海からの風。
山から下りる道。
畑を抜ける水路。
目を凝らせば、
交易都市のさらに奥、
丘を削るように築かれた城が見える。
それらが、
一点に集まる場所。
石造りの門。
高く伸びる見張り塔。
行き交う商人と荷車。
声。
匂い。
動き。
港町とは違う、
“流れ続ける都市”の空気。
「……でっか」
シェリスが、
素直に呟いた。
「ここなら、
腹いっぱい食えるな」
フィロは、
門をくぐりながら言う。
「約束は守る」
短く。
それだけ。
宿は、
すぐに見つかった。
商隊向けの、
広い建物。
荷を下ろす場所。
風呂。
食堂。
すべてが、
“人が集まる前提”で作られている。
部屋の鍵を受け取ると、
フィロは振り返った。
「今日は、ここで休むぞ」
命令ではない。
確認でもない。
当然の流れだった。
シェリスは、
階段を上がりながら、
ふと足を止める。
フィロの横顔を見る。
けれど――
そこに浮かぶのは、
満足でも誇りでもない。
シェリスは、
何も言わなかった。
扉が閉まる。
外では、
街の喧騒が続いている。
ARKは、
次の夜を迎えようとしていた。
つづく




