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割れた道

第三十五話

割れた道


低地の拠点は、

今日も静かだった。


「……風向き、変わらず」


「視界良好。

 林も動いてない」


見張りの声は低い。

油断を排した、仕事の声だった。


指揮位置では、

一人の男が地図から目を離さない。


「陣形確認。

 三街道、間隔維持」


「了解」


「包囲線、詰めすぎるな。

 抜け道を作るな」


誰かが小さく笑う。


「相手は、もう来ないんじゃ?」


男は即座に言い返した。


「“来ない”と判断するのは、

 来てからだ」


その瞬間――


ドンッ。


「――っ!?」


地面が跳ねた。


「何だ今の!?」


「爆発!?

 いや、違う……!」


空気が押し潰され、

衝撃が遅れて腹に来る。


「上を見ろ!!」


叫びに反応して、

何人かが空を仰ぐ。


そこには――

落ちてくる影。


「人影!?

 投下だ!!」


「伏せろ!!」


着地。


ドォンッ!


土と破片が舞い上がる。


「くそっ……!」


「生きてるか!?」


「脚をやられた、動けん!」


即死は少ない。

だが、立てない。


「囲め!

 数は多くない!」


指揮官の声が飛ぶ。


だが――

その直後。


「前方!!

 街道だ!!」


風を裂く音。


「来るぞ!!」


次の瞬間、

突風とともに突っ込んできた影。


「速――」


言葉が途切れる。


陣が、割れた。


「止まらない!!」


「槍を――」


衝突。


弾き飛ばされる人間。


「抜かれるぞ!!」


その“裂け目”に――


別の影が、

落ちていた場所で動く。


「……何だ、あれ」


誰かが呟く。


硬い。

異様に、硬い。


爆音。


「また爆ぜた!?」


「中心が――」


爆圧の中、

その影は崩れない。


「耐えてる……!」


「冗談じゃない……!」


理解が遅れた分、

判断が遅れる。


その隙を――

魔族は逃さない。


街道側。


「行け!!」


軽い声。


ゾフ族が、

風を裂いて走る。


「遅ぇぞお前ら!!」


後ろから笑い声。


「待てって言ってんだろ!」


ノーヴァ族が、

無造作に突っ込む。


「どっかーん!!」


爆音。


「巻き込むな!!」


「耐える前提だろ!?」


硬質化した影が、

爆圧を受け止める。


「……平気よ」


女の声。


「服はボロボロだけど」


「ほらな!」


男の声が続く。


「だから言っただろ、

 泥だらけになるって!」


二つの影が、

陣を抜ける。


「後ろだ!!

 包囲を――」


遅い。


上空。


風が、渦を巻く。


見上げた人間の誰かが、

呟いた。


「……空に、いる」


だが、

そこまでだった。


影は、

もう遠い。


地上に残るのは、

壊れた陣と、息を荒げる人間たち。


指揮官は、

拳を握る。


「……楽じゃないな」


誰かが答える。


「ええ。

 だが――」


視線は、裂けた街道へ。


「次は、来る」


その頃、

魔族側では――


「なぁ!」


ゾフ族が笑う。


「案外、イケたな!」


ノーヴァ族が豪快に返す。


「爆発、気持ちよかった!」


フェッロ族の女が肩を払う。


「次は、

 もう少し静かに落としてくれる?」


男が笑う。


「それ、

 空のやつに言え」


上空から、

風だけが返事をした。

つづく

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