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出口のない場所

第三十一話

出口のない場所


拠点は、

静かだった。


戦いが終わったあとに残る、

あの奇妙な静けさ。


壊れた壁。

踏み荒らされた地面。

燃え残った梁と、黒ずんだ土。


だが――

ここには、まだ「形」があった。


奪われた場所ではなく、

使われるつもりで残された場所。


僕は、

拾い集めた書き物を地面に広げていた。


書簡。

帳簿。

地図。


どれも、急いで置いていかれたものだ。


運び屋は、

少し離れたところで翼を畳み、

周囲を見ている。


ゾフ族はというと、

倒れた柱に腰をかけ、

「へー」「ほー」と

よく分からない相槌を打っていた。


「で?」

ゾフ族が言う。

「なんかヤベーのか?」


僕は、

すぐには答えなかった。


地図を見る。

それから、

拠点を見回す。


――低い。


周囲より、

明らかに低い。


盆地。

窪地。


地図に描かれた線は、

この場所を中心に、

外へ、外へと伸びている。


ここは、

終点じゃない。


通過点だ。


「……ここ、」

僕は、ようやく口を開いた。


「囲まれる前提で、

 用意された場所です」


ゾフ族は、

鼻で笑った。


「はは。

 人間に、そんな余裕ねえだろ」


笑いながら、

地面を蹴る。


だが――

その笑いは、長く続かなかった。


運び屋が、

地図の上に影を落とす。


くちばしの先が、

一か所を指した。


いや、

“落とした”だけだ。


「底だ」


それだけ。


言い切りだった。


空気が、変わった。


ゾフ族の背中から、

ふざけた力が抜ける。


「……あ?」


目が、

周囲を見る。


壁。

丘。

外縁。


上。

すべて、上。


「上、取られてたら……」


言いかけて、

止まる。


運び屋は、

続けなかった。


代わりに、

視線を上げる。


空。


ゾフ族は、

もう笑っていなかった。


「……囲まれる、な」


小さく、

そう言った。


アホな顔のまま。

だが、

戦う者の目になっていた。


僕は、

地図を見下ろした。


書き込みは、

異様に丁寧だった。


渡河点。

高地。

視界。


この拠点が落ちることは、

最初から計算に入っている。


ここで戦わせ、

ここで縛り、

――上から、刈る。


背筋に、

冷たいものが走った。


「……人間は」

僕は、声を落とす。


「ここを、

 捨てるつもりだった」


ゾフ族が、

舌打ちをする。


「クソが」


運び屋は、

翼を少しだけ広げた。


飛ぶ準備じゃない。


“位置を確かめる”動きだ。


「まだ、

 知られてない可能性がある」


その言葉に、

ゾフ族が振り向く。


「けど」

運び屋は続ける。


「確認は、来る」


僕は、

手にしていた書簡を見る。


返事のない文。

期限だけが過ぎた命令。


次は――

様子見じゃない。


回収だ。


あるいは、

掃討。


ここは、

出口のない場所だった。


静かな拠点。

だが、

上では、すでに目が開いている。


風が、

谷を抜けた。


僕は、

その冷たさを、

はっきりと感じていた。


ここに留まれば、

見つかる。


動けば、

追われる。


それでも――

何もしなければ、

もっと早く終わる。


運び屋が、

僕を見る。


何も言わない。

つづく

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