表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/59

受け入れるという仕事

第十四話

受け入れるという仕事


背中から降ろされたとき、

翼が切った風だけが残っていた。


振り返ると、

翼を畳みかけた魔族が、すでに上空へ戻ろうとしていた。


「ここだ」


それだけで十分らしい。


彼は一瞬だけこちらを見て、言った。


「俺は運び屋だ」


短い言葉だった。


一瞬、理解が遅れる。

名を告げたのかと思った。


違う。

役割だ。


だが、それをそのまま呼び名にする――

その感覚が、どこか人に似ている。


周囲の魔族たちは、

誰も気に留めていない。


「またな」


運び屋はそれだけ言って、

再び空へ溶けていった。


迎えは、すでにいた。


人に近い姿の魔族が、

こちらへ歩いてくる。


角はなく、

牙が少しだけ覗く口元。


「ネム族。

この砦で、受け入れと振り分けを任されている主任よ」


名を告げるでもなく、

役割を語る。


だがそれは、

この場で必要なすべてだった。


「立っているだけだと、邪魔になるわ。

こちらへ来て。話は歩きながらでいい」


広場には、

様々な種族がいた。


戦える者。

戦うことをやめた者。

戦えなくなった者。


そのすべてが、

ここに集められている。


「ここは、戦わないと判断された者が降ろされる場所。

追い返す場所でも、守る場所でもない」


主任は淡々と告げる。


「戦う意思があり、

それを形にできる者は前へ行くわ。

そうでない者は、ここに残る」


「理由は聞かない。

聞いたところで、変えられるものでもないから」


歩きながら、

砦の構造が見えてくる。


「中央にいるのが、ヴァルグ族。

あの個体だけは、守護者と呼ばれてるわ」


確かに、

動かない影があった。


岩のように構え、

砦の中心から一歩も離れない。


「高所にはシャル族。

遠くを見る役目で、近くを守る役目じゃない」


「空を巡っているのが、アエン族。

物も、情報も、逃げ道も運ぶ。

空がある限り、完全に詰むことはない」


「それ以外は、生き延びる側。

ここでは、それが一番重い役割よ」


主任は足を止め、

僕を見た。


「あなたは、何ができる?教えて」


言葉が、出なかった。


できること。

持っているもの。


――何一つ、

即答できるものがない。


主任は、少しだけ目を細めた。


「……今は、答えなくていいわ」


「長い旅路で疲れ切ってる。

そんな顔してる」


彼女は、砦の奥を指した。


「今は休みなさい」


「ここでは、

休むことも、立派な仕事なの」


用意された寝床は、

驚くほど温かかった。


石と布だけの簡素な場所。

それでも、身体がほどけていく。


横になった瞬間、

眠気が押し寄せる。


そのとき、

部屋の棚に、目が留まった。


積まれた物語。

人の文字で書かれた、娯楽の本。


触れられず、

捨てられもせず、

そのまま置かれている。


――ここには、本がある。


そう思ったところで、

意識が沈んだ。


久しぶりに、

何も考えずに眠った。

つづく

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ