表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/58

第十三話


砦を見つけたのは、

偶然だった。


くしゃくしゃになった地図を広げ、

折り目をなぞり、

何度も見直しているうちに。


谷を越えた先、

岩と土が積み重なった影が見えた。


人間の砦。


——ただし。


今は使われていない場所だ。


近づく前に、

風が変わった。


影が、

上を横切る。


反射的に足を止める。


次の瞬間、

強い風が地面をなでた。


砂利が舞い、

視界が揺れる。


何かが、

目の前に降り立った。


翼。

鉤爪。

鋭い嘴。


猛禽類の姿をした魔族。


大きいが、

重さを感じさせない。


空を生きるための体。


こちらを見る目は、

警戒というより、確認に近かった。


「……行く当てはあるか」


低い声。


簡潔で、

感情が少ない。


僕は、

一瞬だけ考えた。


——ある、と言える場所はない。


首を横に振る。


「なら、乗れ」


短く言って、

翼を畳む。


背を低くし、

明確に“場所”を作る。


命令ではない。

選択肢でもない。


受け入れる、という動作だった。


背に跨る。


思ったより、

安定している。


羽毛の奥に、

しっかりした筋肉の感触がある。


「掴まれ。

 ただし、身を乗り出すな」


声が、

すぐ近くから聞こえる。


「落ちる」


忠告。


脅しではない。


事実としての言葉。


翼が広がり、

風が巻き上がる。


身体が、

静かに浮いた。


上から、

砦が見えた。


近づいていた時には分からなかったものが、

はっきりと形になる。


崩れた門。

だが、完全には塞がれていない。


中央。


動かない影。


二足で立つ、

鱗に覆われた魔族。


でかい。


——違う。


重い。


存在そのものが、

砦の芯になっている。


視線が、

自然とそこに吸い寄せられる。


壁際。


瓦礫の上。


植物のような魔族が複数。


葉が、

刃の形をしている。


距離を保った配置。


射線が、

自然に通っている。


上空。


別の翼の影が、

円を描いている。


——同じ種だ。


空は、

完全に押さえられていた。


砦の奥。


掃き清められた床。

まとめられた荷。


人に近い姿の魔族が、

忙しなく動いている。


戦うためではない。


生活のための動き。


壁の内側。


四足の影。


狼。


前には出ない。


守られる側だ。


考えてしまう。


勝手に。


——前。

——後ろ。

——高所。

——空。

——生活圏。


誰かが命じた形ではない。


それでも、

形になっている。


前の集落より、

ずっと。


「……見るな」


背の下から声。


「力を抜け」


高度が下がる。


風が、

静まる。


広場だった場所に、

降ろされた。


足が地面に触れる。


翼の魔族は、

一度だけこちらを見る。


値踏み。


それから、

淡々と言った。


「ここは、行き場のないやつを追い返さない」


つまり——

生きていれば、

居場所にはなる。


それだけだ。


翼が広がり、

風とともに上空へ消える。


僕は、

息を整えた。


肩の袋が、

ずしりと重い。


中には、

人の文字の本と、

くしゃくしゃの地図。


——ここは、

ただの避難先じゃない。


そう思ってしまった。


理由は、

まだ分からないまま。

つづく

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ