表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/12

変わり始めたもの

第十一話

変わり始めたもの


最後に残っていたのは、

影だった。


音もなく、

気配も薄く、

それでも――確かにそこにいる。


スカーミルだった。


倒れていった仲間たちの中で、

ただ一体だけ残された存在。


誰かを守るでもなく、

退くでもなく、

そこに在るという意志だけで立っている。


それでも、

その足取りだけは迷っていなかった。


狙いは一つ。


同じ仲間を屠った騎士。

光を振るう者。


背後に回り込み、

距離を詰め、

最後まで“闇討ち”を捨てない。


それが、自身に与えられた役割だった。


一歩。

また一歩。


刃が振るわれる、その刹那。


光が走った。


一瞬だった。

スカーミルの身体は、音もなく消えた。


そこに血は残らない。

悲鳴もない。


ただ、

影が、途切れただけだった。


消える直前、

かすかな声が落ちる。


「……生き延びろ」


誰に向けた言葉だったのかは、分からない。


フィロは一瞬だけ、

その場に視線を残した。


それ以上、何も言わなかった。


戦場が、

ほんの一呼吸だけ、静まった。


風が通り、

焚火の火が小さく揺れる。


その沈黙の中で、

最初に動いたのはオリヴェットだった。


違和感を感じ取るように、

彼女は歩き出す。


規則的に並んだ岩。

不自然に間隔を保った魔物の骸。

そして、高台。


言葉はない。

視線と足取りだけで、

彼女は“準備された戦場”をなぞっていく。


その行動が気になったのか、

フィロはその背中を追った。


少し遅れて、

リラが周囲を確認する。


草陰。

岩の裏。

逃げ遅れたものがいないか。


習慣のような動きだった。


一方で、

シェリスは焚火のそばに腰を下ろしていた。


倒木を簡易のベンチにして、

足をぶらつかせる。


燃え残った薪が、

小さく音を立てる。


「……配置、変でしたね」


焚火のそばに戻ったフィロに、

リラが口を開く。


「偶然ではない」


フィロは短く答えた。


「攻撃に統率があった。

 時間を稼ぐ動きもしていた」


リラはうなずく。


「囲もうとしてました。

 正面から、来なかった」


シェリスが欠伸をひとつ。


「頭でも打ったやつがいたか?」


軽い調子だったが、

誰も否定しなかった。


「その原因が、ここで果てたなら問題ない」


フィロが言う。


「問題は――

 同じやり方が、他にも広がるかどうかだ」


リラが首をかしげる。


「原因が、生き残っている……?」


「おそらくな」


フィロは即答した。


「問題は“今”じゃない」


一瞬、焚火が弾ける。


「ま、雑魚ならやられてたかもなぁ!」


シェリスが、悪い顔で笑った。


「……報告、必要ですよね?」


リラが問う。


フィロは、少しだけ間を置いた。


「ああ……」


そして、静かに続ける。


「考える魔族が出始めた。

 知らせたほうがいいだろう」


それで十分だった。


村が守られるかもしれない。

町が備えるかもしれない。

軍が、次の一手を選べるかもしれない。


その可能性を、

彼女たちは軽視しない。


どれほど自分たちが強くても、

どれほど届かない差があっても。


焚火を踏み消し、

彼女たちは歩き出す。


足並みは揃っている。


旅は、まだ終わらない。


ただ、

何かが変わり始めていることだけが、

確かだった。


それでも彼女たちは、

進む。


いつも通りに。

つづく

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ