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王を滅し者

第十話

王を滅し者


最初に異変を感じたのは、

風だった。


音が消えるわけではない。

気配が消えるわけでもない。


ただ、

世界の密度が変わった。


誰かが、来ている。


それだけが、はっきりと分かった。


岩が飛んだ。


グラウンドルたちが投げたものではない。

迎撃のために積み上げてきた、

集落を守るための岩だった。


それが、

次の瞬間、投げ返される。


あり得ない軌道で、

あり得ない速度で。


オリヴェット・A・スチュアート。

Ark Walkure。


山に育ち、

自然と共に生き、

力そのものを疑わなかった少女。


彼女は、

ただそこに立っていた。


スカーミルたちが動く。


岩の影を使い、

音を殺し、

一斉に背後へ回り込む。


成功体験は、確かにあった。

この戦い方で、

人間を退けてきた。


――だが。


フィロ・ライトフィールド。

Ark Knight。


彼女が一歩、回る。


それだけで、

背後にいたはずのスカーミルたちは

そこから消えた。


悲鳴はない。

血もない。


あったはずの“数”が、

一瞬で成立しなくなる。


モル=ティアが魔法を放つ。


詠唱は短い。

角度も、距離も、悪くない。


だが、

魔法は岩に届かない。


光に触れた瞬間、

消滅した。


シェリス・ラグエンス。

Ark Bishop。


祈ってはいない。

構えてもいない。


ただ、

そこにいるだけだった。


業を煮やしたグラウンドルたちが、

一斉に転がる。


質量。

速度。

圧。


正面から受け止めれば、

どんな種族でも潰れる。


――はずだった。


リラ・ポーレン。

Ark Hoplites。


彼女が前に出る。


受け止める。

弾くのではない。

止めるのでもない。


ランスを叩きつける。

体重と力だけで。


転がっていたものは、

砕け散った。


連携ではない。


合図もない。

確認もない。

役割分担もない。


それでも、

すべてが噛み合っていた。


まるで、

同じ戦場を

同じ答えで見ているかのように。


僕は、分かった。


作戦が悪かったわけじゃない。

判断が遅れたわけでもない。


同じ土俵に、いなかった。


前線が、崩れた。


戦術が壊れたのではない。

力が足りなかったわけでもない。


ただ、

すべてが届かなかった。


誰かが、前に出る。


逃がすために。

時間を稼ぐために。


その視線が、

一斉に、僕に向く。


言葉はなかった。

でも、分かった。


――僕は、残る側じゃない。


誰かの声が、低く、短く落ちた。


「行け」


続く言葉は、

ひとつだけではなかった。


「お前は魔族の未来だ」


胸の奥が、冷えた。


それは、

命令じゃない。

希望でもない。


だから、

振り返らなかった。


振り返ってしまえば、

それを否定することになる。


気づいた時には、

肩の袋が重くなっていた。


誰が入れたのかは、分からない。


分からないままでいいと、

そう思えた。


走りながら、

胸に抱えた本が揺れる。


何度も読んだ。

何度も信じた。


弱き者が、

知恵を集め、

強きを倒す物語。


表紙に書かれた、

擦れた三文字。


ARK


それが、

僕を追ってくる気がした。

つづく

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