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ARK

PROLOGUE

――ARK


祈りの言葉は、

いつも同じだった。


「どうか、今回こそ」


それが何を指すのかを、

人々は詳しく語らない。


ただ、かの者たちによって

守られた街があり、

繋がった道があった。


それだけで、

人は祈る理由としては十分だった。


それは、

王都で静かに告げられた。


鐘が鳴り、文が配られ、

広場には人が集まる。


騒然とすることはない。

混乱もなかった。


この光景を前にして、

人々は知っている。


この呼びかけが行われるとき、

何が始まるのかを。


選ばれたのは、四名だった。


教会の聖堂で名が読み上げられ、

祝福が与えられる。


祈りの言葉は定型で、

誓約も簡潔だ。


集まった者たちにとって、

彼女たちが何者であるか、

どれほどの力を持つのかは重要ではない。


この役目に選ばれた、

という事実だけで、

それは十分だった。


やがて、

その役目に与えられる名が告げられる。


Ark。


国を託され、

戦場に立つ者たち。


その名は、

恐怖よりも先に、

期待として受け取られる。


先頭に立つのは、

名家の女騎士。


Ark Knight

フィロ・ライトフィールド。


国と家の紋様が刻まれた装備。

余計な動きのない立ち姿。


名家の生まれだと、

誰もが知っている。


それでも、

彼女の背に向けられる視線は、

血筋よりも姿勢を見ていた。


剣を抜かずとも、

そこに立っているだけで場が静まる。


家名が告げている。

彼女は、成し遂げると。


その場にいる誰もが、

そう信じて疑わなかった。


そのすぐ後ろに、

小さな影があった。


教会の孤児。


Ark Bishop

シェリス・ラグエンス。


年若い少女。

僧衣は体に合っていない。


不安の声が

上がらないわけではない。

だが、それはすぐに消える。


彼女が視線を上げた瞬間、

場の空気が変わった。


理由は分からない。

ただ、触れてはいけないものが、

そこに在る。


それを前にした者たちは、

同じ感覚だけを抱いていた。


祈りは、

彼女を通して天に届く。


そう信じられていた。


少し離れた位置に、

弓を背負った少女がいる。


Ark Walkure。


自然に育ったと、

そう呼ばれる者。


オリヴェット・A・スチュアート。


革の鎧を身にまとい、

足取りは軽い。

視線は常に外を向いている。


都市の者には分かりづらいが、

森を知る者なら気づく。


彼女は、

この場所を正しく見ていない。


もっと遠く、

もっと広い場所を見ている。


その視線が、

戦場で迷うことはない。


それが信頼に変わるまで、

時間はかからなかった。


最後に、

ひときわ大きな影があった。


教会の志願兵。


Ark Hoplites

リラ・ポーレン。


大きな十字が刻まれた盾と槍。

本来なら設置されるはずの装備を、

彼女は一人で持っている。


圧倒的な体格。

それだけで、人は安心する。


だが、近くに寄れば、

その表情はどこか幼い。


怯えと、

責任感が同居している。


それでも彼女は立つ。

命じられた場所に。


それが、

兵としての正しさだと

教えられてきたからだ。


人々は集まり、

歓声を上げる。


剣を掲げる者もいれば、

ただ手を合わせる者もいる。


その場に疑問はなかった。

送り出すこと自体が、

正しい行為だと信じられている。


誰かが戻らない可能性について、

考える者はいない。


それは、

考えなくていいこととして、

長い時間をかけて

切り分けられてきたからだ。


出陣の刻は、

淡々と訪れた。


準備はすでに整っており、

命令は簡潔だった。


目指すのは、

魔族領域の奥。


魔族の王が

いるとされる場所。


遠征の困難さについて、

多くは語られない。


Arkが進むなら、

道は開かれる。


そう信じる理由を、

人々はすでに持っていた。


四人は歩み出す。


背中に向けられる視線は、

期待と祈りに満ちている。


それを見送る者たちは、

同じ言葉を胸に抱いていた。


――今回こそ。


その言葉が

何度使われてきたのかを、

正確に覚えている者はいない。


だが、それでも。


今回もまた、

物語は始まった。

つづく

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